洪水により決壊した堤防の背後に設置された仮堤防が約一年後に前年をはるかに上回る豪雨のため破堤したとしても、その設置に当たりかかる連年の災害を受ける危険を予測しなかつたことに無理からぬ事情があり、右仮堤防が本堤防完成までの二年間の出水に対処する目的で応急対策として短期間に築造された仮の施設であつて、その築堤材料に砂丘砂を単一使用したこと及び築堤材料の点を除く断面・構造を決壊した堤防と同じくしたことにつき、過去の水害の発生状況、仮堤防の存置期間等から予測しうべき水害についてはその発生を防止して後背地の安全を確保したものとして、時間的、財政的及び技術的制約のもとでの同種・同規模の河川に同趣旨で設置する仮堤防の設計施工上の一般水準ないし社会通念に照らして是認することができるときは、その断面・構造に河川管理の瑕疵があるとはいえない。
洪水により決壊した堤防の背後に設置された仮堤防につき河川管理の暇瑕がないとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
河川管理の瑕疵は、自然的・社会的制約の下での管理の一般水準及び社会通念に照らし、是認しうる安全性を備えているかで判断すべきであり、改修計画の未達成や仮堤防の設計も、当時の諸制約に照らし是認される限り瑕疵には当たらない。
問題の所在(論点)
改修計画が未達成であったこと、および砂丘砂の使用や断面構造の設計等、応急的な仮堤防が通常の堤防より脆弱であったことが、国家賠償法2条1項の「管理の瑕疵」に当たるか。
規範
国家賠償法2条1項の「設置又は管理に瑕疵」があるとは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。河川は、自然的条件による予測困難な変動や、財政的・技術的制約を伴う広域的かつ長期的な改修を要する特殊性がある。したがって、河川管理の瑕疵の有無は、過去の水害状況、地形等の自然的条件、土地利用等の社会的条件、改修の緊急性等を総合考慮し、諸般の制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えているか否かを基準として判断すべきである。
重要事実
新潟県の阿賀野川(a川)において、昭和27年に策定された改修計画が未達成であった。昭和41年の「7.17洪水」により堤防が決壊したため、県はショートカット工事を含む抜本的対策を立案したが、本堤防完成までの応急措置として、近傍で入手容易な砂丘砂を材料とする仮堤防を設置した。しかし、翌昭和42年8月、7.17洪水を上回る異常な集中豪雨(8.28洪水)により同仮堤防が決壊し、周辺住民が被害を受けた。
あてはめ
第一に、昭和27年改修計画の未達成については、当該区間が当時危険な状況になく、利水対策等の事前解決が困難であったこと、他河川と比較して財政的措置が不十分とはいえないことから、一般水準に照らし是認される。第二に、本件仮堤防はあくまで短期間の応急施設であり、本堤防と同一の基準を求めるのは相当でない。材料に砂丘砂を用いた点も、運搬や緊急性の制約下でやむを得ない選択であり、当時の施工事例に比して劣るものではない。さらに、8.28洪水は400年に1回程度の極めて稀な異常豪雨であり、これを予測・防止しなかったことが社会通念上許容されないとはいえない。
結論
河川管理の瑕疵は認められず、被告(新潟県)の損害賠償責任は否定される。
実務上の射程
河川等の自然公物における瑕疵判断について「特段の事情がない限り、改修計画が合理的なものである限り、管理の瑕疵を否定する」という過渡期的特質を重視する判断枠組み(大東水害訴訟踏襲)として、答案上、河川の特殊性を論じる際に必須の判例である。
事件番号: 平成2(オ)1650 / 裁判年月日: 平成6年10月27日 / 結論: 棄却
一 堤防の基礎地盤に破堤の要因があって水害が生じたとしても、基礎地盤については、過去における災害時の異常現象等によって欠陥のあることが明らかとなっているなど特段の事情のある場合を除き、そのすべてについて、あらかじめ安全性の有無を調査し、所要の対策を採るなどの措置を講じなければならないものではなく、右特段の事情が認められ…