一 河川の管理についての瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模発生の頻度、発生原因、被害の性質降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理における財政的、技術的及び社会的諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである。 二 改修計画に基づいて現に改修中である河川については、右計画が、全体として、過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、河川管理の一般水準及び社会通念に照らして、格別不合理なものと認められないときは、その後の事情の変動により未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり、早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り、当該河川の管理に瑕疵があるということはできない。
一 河川管理についての瑕疵の有無の判断基準 二 改修計画に基づいて改修中の河川と河川管理の瑕疵の有無
国家賠償法2条1項
判旨
河川管理の瑕疵(国賠法2条1項)の有無は、財政・技術・社会上の諸制約を考慮し、同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えているか否かで判断すべきである。改修計画が全体として不合理でなく、水害の危険性が特に顕著となる特段の事由がない限り、未改修であることのみをもって瑕疵があるとはいえない。
問題の所在(論点)
未改修河川または改修途上の河川において、改修計画の遅れや部分的な未改修状態が存する場合に、国家賠償法2条1項の「瑕疵」が認められるための判断枠組みが問われた。
規範
営造物の設置・管理の瑕疵とは、通常有すべき安全性を欠く状態をいう。河川は自然公物として洪水等の危険を内包し、治水事業には財政的・技術的・社会的制約が存するため、その瑕疵の判断基準は、道路等の人工営造物とは異なる。具体的には、過去の水害状況、地形、土地利用状況、改修の緊急性等を総合考慮し、諸制約下での「河川管理の一般水準及び社会通念」に照らして是認し得る安全性を備えているか否かを基準とする。特に改修計画が全体として不合理でない場合、危険性が特に顕著となり早期改修を要する「特段の事由」がない限り、未改修であることをもって瑕疵とは認められない。
重要事実
大阪府が管理する一級河川大東川(d川)流域は急激な都市化が進み、内水氾濫が顕在化した。府は全体的な改修計画に基づき、他水系を含め多額の投資を行い、下流から順次改修を進めていた。本件の「未改修部分」は、鉄道駅前の密集地で用地買収が困難な社会的制約から、先行して行われた上下流の「ショートカット工事」から取り残された。昭和47年、集中豪雨により当該未改修部分から溢水し、周辺住民に浸水被害が生じたため、住民らが管理の瑕疵を主張して国家賠償を請求した。
あてはめ
d川の改修計画は、流域の急速な都市化に対応して変更され、予算配分や技術的順序(下流から上流へ)に則り実施されており、全体として不合理とは認められない。本件未改修部分の放置は、用地買収という社会的制約に基づくものであり、単に上下流が先行改修された事実のみでは、当該箇所の水害危険性が特に顕著となった「特段の事由」には当たらない。また、土砂堆積についても、溢水の危険性が特に高い箇所であるとの具体的立証がない限り、即座に一般水準を逸脱した瑕疵とは断定できない。したがって、過渡的な安全性として是認し得る余地がある。
結論
河川管理に直ちに瑕疵があるとはいえず、原判決の瑕疵認定には審理不尽・理由不備がある。本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
河川等の自然公物における国賠法2条1項の瑕疵判断において、予算・時間・技術・社会の「4つの制約」を考慮する「過渡的安全性」の理論を確立した重要判例である。答案では、人工営造物(高知落石事件等)の「予算の抗弁不可」の原則が、河川管理においては修正されることを論じる際に用いる。ただし、改修計画そのものの不合理性や、危険が特に顕著な「特段の事由」の有無の検討を怠ってはならない。
事件番号: 昭和57(オ)560 / 裁判年月日: 昭和60年3月28日 / 結論: 棄却
洪水により決壊した堤防の背後に設置された仮堤防が約一年後に前年をはるかに上回る豪雨のため破堤したとしても、その設置に当たりかかる連年の災害を受ける危険を予測しなかつたことに無理からぬ事情があり、右仮堤防が本堤防完成までの二年間の出水に対処する目的で応急対策として短期間に築造された仮の施設であつて、その築堤材料に砂丘砂を…
事件番号: 平成2(オ)1650 / 裁判年月日: 平成6年10月27日 / 結論: 棄却
一 堤防の基礎地盤に破堤の要因があって水害が生じたとしても、基礎地盤については、過去における災害時の異常現象等によって欠陥のあることが明らかとなっているなど特段の事情のある場合を除き、そのすべてについて、あらかじめ安全性の有無を調査し、所要の対策を採るなどの措置を講じなければならないものではなく、右特段の事情が認められ…
事件番号: 平成1(オ)1628 / 裁判年月日: 平成5年3月26日 / 結論: 棄却
一 河川について中小河川改修事業としての全体計画が確定され、その第一期計画に基づき、対象となった区間につき改修工事が具体的に計画され、その実施に必要な用地の買収交渉が行われていたなど判示の事実関係の下においては、河川管理の瑕疵の有無の判断基準の適用について、右河川は、改修計画に基づいて現に改修中の河川に当たる。 二 中…