特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は、右所有権移転登記の抹消登記手続のほか、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができる。
特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言がされた場合において他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人からの所有権移転登記を経由しているときの遺言執行者の職務権限
民法908条,民法1012条,民法1013条,民法1015条,民訴法第1編第3章当事者
判旨
「相続させる」旨の遺言による権利移転が妨害された場合、遺言執行者は妨害排除として登記抹消や真正な登記名義回復の請求権限を有する。また、遺留分権利者が減殺請求を行う前に受贈者が目的物を譲渡した場合は民法1040条1項が類推適用される。
問題の所在(論点)
1. 「相続させる」旨の遺言がなされた場合において、遺言の内容に反する登記がなされたとき、遺言執行者は登記請求等の訴訟を遂行する当事者適格を有するか。 2. 遺留分減殺請求前に受贈者が目的物を譲渡した場合に、民法1040条1項が適用または類推適用されるか。
規範
1. 特定不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定であり、何ら行為を要せず直ちに当該権利を承継させる。もっとも、相続人以外の名義に登記される等して遺言の実現が妨害されている場合には、遺言執行者は、妨害排除として登記抹消請求や真正な登記名義の回復を求める権限を有する(旧民法1012条1項)。 2. 「相続させる」旨の遺言により権利を取得した者が、遺留分減殺請求を受ける前に目的物を他に譲渡した場合には、民法1040条1項が類推適用され、原則として価額弁償義務のみを負う。
重要事実
事件番号: 昭和51(オ)190 / 裁判年月日: 昭和51年7月19日 / 結論: 棄却
遺言執行者がある場合に、包括受遺者が遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴の被告としての適格を有する者は、遺言執行者に限られる。
被相続人Dは、本件土地1を子Eらに、本件土地2を子B3および孫Aに「相続させる」旨の公正証書遺言を作成し、B4を遺言執行者に指定した。しかし、Dの死後、B3は旧遺言に基づき各土地について自己名義の所有権移転登記を完了した。これに対し、遺言執行者B4は真正な登記名義の回復を原因とする移転登記等を求め、他方で代襲相続人B1・B2(当事者参加人)は遺留分減殺請求権を行使して共有持分権の確認等を求めた。
あてはめ
1. 「相続させる」遺言であっても、登記実務上の単独申請が可能であることに留まらず、他者の登記によって遺言の実現が妨害されている以上、その排除は「遺言の執行に必要な行為」に含まれる。よって、遺言執行者は妨害排除を求める当事者適格を有する。 2. 共同相続人間での譲渡であっても、同条にいう「他人」への譲渡に該当する。本件においてEらからB3への共有持分譲渡がなされていたならば、悪意等の特段の事情がない限り、現物の返還請求は認められず、価額弁償の問題となる。
結論
1. 遺言執行者は、遺言の実現を妨げる登記を排除するための原告適格を有する。 2. 減殺請求前の目的物譲渡については民法1040条1項が類推適用され、譲受人が悪意でない限り現物返還を請求できない。
実務上の射程
「相続させる」遺言の法的性質(遺産分割方法の指定)と遺言執行者の職務権限の範囲を示す重要判例である。答案上は、遺言執行者の原告適格が争点となる場面や、遺留分減殺請求と目的物譲渡の先後が問題となる場面で活用する。
事件番号: 平成10(オ)994 / 裁判年月日: 平成12年5月30日 / 結論: 破棄自判
遺贈の対象不動産についてされた共同相続登記を右登記後の遺留分減殺請求による持分の相続登記に更正することはできない。 (補足意見がある。)
事件番号: 昭和42(オ)1023 / 裁判年月日: 昭和43年5月31日 / 結論: 破棄差戻
遺言執行者がある場合においては、特定不動産の受遺者から遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴の被告適格を有する者は、遺言執行者にかぎられ、相続人はその適格を有しない。
事件番号: 昭和42(オ)99 / 裁判年月日: 昭和44年5月27日 / 結論: 棄却
甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し、丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合においては、甲は、丙に対して、登記の欠缺を主張して右不動産の所有権の取得を否定することはできない。
事件番号: 昭和48(オ)369 / 裁判年月日: 昭和50年3月6日 / 結論: 棄却
買主に対する土地所有権移転登記手続義務を相続した共同相続人の一部の者が右義務の履行を拒絶しているため、買主が相続人全員による登記手続義務の履行の提供があるまで代金全額について弁済を拒絶する旨の同時履行の抗弁権を行使している場合には、他の相続人は、自己の相続した代金債権を保全するため、右買主が無資力でなくても、これに代位…