遺言執行者がある場合においては、特定不動産の受遺者から遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴の被告適格を有する者は、遺言執行者にかぎられ、相続人はその適格を有しない。
遺言執行者がある場合と遺贈義務の履行を求める訴の被告適格
民訴法45条,民法1012条,民法1013条,民法1014条,民法1015条
判旨
遺言執行者が指定または選任されている場合、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告適格を有する者は遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しない。
問題の所在(論点)
遺言執行者が選任されている場合において、遺贈を原因とする所有権移転登記請求訴訟の被告適格は誰にあるか。相続人は被告適格を有するか。
規範
遺言執行者が存在する場合、遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同1013条)。したがって、遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴訟においては、遺言執行者が被告適格を有し、相続人はこれを有しないと解すべきである。
重要事実
亡Dが所有する本件建物について、被上告人らに対し各2分の1の割合で遺贈する旨の遺言がなされた。Dの死後、被上告人らはDの相続人である上告人に対し、当該遺贈を原因とする所有権移転登記手続を求めて提訴した。これに対し、上告人は遺言執行者としてEが指定され、その後解任を経て弁護士Fが選任された旨を主張し、証拠上も遺言執行者が存在する事実が認められる状況であった。
事件番号: 昭和51(オ)190 / 裁判年月日: 昭和51年7月19日 / 結論: 棄却
遺言執行者がある場合に、包括受遺者が遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴の被告としての適格を有する者は、遺言執行者に限られる。
あてはめ
本件では、公正証書遺言によりEが遺言執行者に指定され、その後家庭裁判所によってFが新たに選任された可能性が高い。民法1012条1項・1013条の規定に基づき、遺言執行者が存在すれば、遺言の執行に必要な管理処分権は遺言執行者に専属する。登記手続はまさに遺言の執行に必要な行為であるため、相続人である上告人は当該行為を行う権限を欠き、被告としての当事者適格を欠くことになる。
結論
遺言執行者が存在する場合には、相続人を被告とする登記請求訴訟は被告適格を欠く不適法な訴えとして却下されるべきである。原審は遺言執行者の存否を審理せず本案判決をした違法があるため、差し戻しを免れない。
実務上の射程
遺言執行者の権限が相続人の権利を排除する範囲(管理処分権の独占)を示す重要判例である。司法試験では当事者適格の論点として、また民法上の遺言執行者の権限の帰結として整理すべきである。なお、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)の場合は、登記なくして対抗できる等の性質から本判例の枠組みと異なる議論があり得る点に注意を要する。
事件番号: 昭和33(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和35年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買の売主が所有権移転登記手続の代理権を授与した後、受任者が売主の死亡後に代理人として登記を申請した場合、その登記手続は有効である。 第1 事案の概要:上告人の被相続人Dは、本件不動産を被上告人に売却し、その所有権移転登記手続の代理権を姉であるEに授与した。その後、Dが死亡したが、受任者Eは…
事件番号: 昭和32(オ)563 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 棄却
被相続人の訴訟代理人であつた者は、被相続人の死亡による訴訟承継の結果、新たに当事者となつた相続人の訴訟代理人として訴訟行為をなすことができるものと解すべきである。
事件番号: 平成10(オ)1499 / 裁判年月日: 平成11年12月16日 / 結論: その他
特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が相続開始後に当該不動産につき被相続人から自己への所有権移転登記を経由しているときは、遺言執行者は、右所有権移転登記の抹消登記手続のほか、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることができる。
事件番号: 昭和31(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年8月26日 / 結論: 棄却
一 後見人の職務執行停止の仮処分命令において、後見人に対する職務執行停止の効力はその命令正本が当該後見人に送達されたときに生ずる。 二 甲所有の不動産を、その後見人乙が代理して丙に譲渡し、乙の職務執行停止の仮処分がなされた後乙は丙のために移転登記をなし、ついで丙は同不動産を丁に譲渡し移転登記をした場合に、甲は丁に対して…