買主に対する土地所有権移転登記手続義務を相続した共同相続人の一部の者が右義務の履行を拒絶しているため、買主が相続人全員による登記手続義務の履行の提供があるまで代金全額について弁済を拒絶する旨の同時履行の抗弁権を行使している場合には、他の相続人は、自己の相続した代金債権を保全するため、右買主が無資力でなくても、これに代位して、登記手続義務の履行を拒絶している相続人に対し買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができる。
土地の売主の共同相続人がその相続した代金債権を保全するため買主に代位して他の共同相続人に対し所有権移転登記手続を請求することの許否
民法423条1項,民法533条
判旨
不動産の売主の共同相続人の一人が登記義務の履行を拒絶する場合、買主は他の相続人に対しても代金全額の支払を拒絶できる。この場合、他の相続人は自己の代金債権を保全するため、買主の無資力を問わず、買主に代位して協力しない相続人に対し登記請求権を行使できる。
問題の所在(論点)
1. 共同相続人の一人が登記を拒絶する場合、買主は他の相続人に対しても代金全額の支払を拒絶できるか(同時履行の抗弁権の範囲)。 2. 登記に応じる相続人は、自己の代金債権を保全するために、買主の無資力を要件とせず、買主の登記請求権を代位行使できるか。
規範
1. 売主の共同相続人が負う所有権移転登記義務は不可分債務であり、共同相続人全員が履行を提供しない限り、買主は同時履行の抗弁権(民法533条)に基づき代金全額の支払を拒絶できる。 2. 共同相続人の一人は、買主の同時履行の抗弁権を消滅させて自己の代金債権(可分債権)を保全するため、買主の資力の有無を問わず、債権者代位権(民法423条1項)に基づき、登記に協力しない他の相続人に対して買主の登記請求権を代位行使できる。
重要事実
事件番号: 昭和33(オ)517 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
不動産の買主が、その売主の相続人に対し、売買を原因として、当該不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、その相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではない。
被相続人が生前に土地を売却し、買主に対して所有権移転登記義務を負っていたが、履行前に相続が開始した。共同相続人の一人(上告人)が登記義務の履行を拒絶したため、買主は代金の支払を拒絶した。これに対し、他の相続人が自己の相続した代金債権を保全するため、買主に代位して上告人に対し登記手続を求めた。
あてはめ
1. 所有権移転登記義務は性質上不可分であり、共同相続人全員が履行を提供しなければ買主は契約の目的を達せない。したがって、一人が拒絶すれば、買主は他の相続人に対しても代金全額の支払を拒絶できるというべきである。 2. この場合、代金支払を求める相続人は、買主に同時履行の抗弁権を行使される結果、自己の債権行使を阻まれる。この障害を除去することは自己の債権保全に直結するため、登記請求権の行使は「債務者の資力に関わらず」認められる転用型の債権者代位として正当化される。
結論
共同相続人の一人が登記を拒絶する場合、買主は代金全額の支払を拒絶できる。一方、他の相続人は買主の資力を問わず、買主に代位して当該相続人に登記を請求できる。
実務上の射程
同時履行の抗弁権が認められる場面において、債務者(本件では買主)の資力を要件とせずに債権者代位権の行使(転用)を認めた重要判例である。答案上は、金銭債権が当然分割される原則(可分債務)と、登記義務の不可分性を対比させた上で、代位権行使の「保全の必要性」を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和39(オ)140 / 裁判年月日: 昭和39年7月16日 / 結論: 棄却
買主が売主の相続人に対し、売買を原因として目的不動産について所有権移転登記を求める訴訟は、右相続人が数人いるときでも、必要的共同訴訟ではない(昭和三六年一二月一五日、民集一五巻一一号二八六五頁参照)。
事件番号: 昭和47(オ)1071 / 裁判年月日: 昭和48年9月7日 / 結論: 棄却
不動産の売買契約において、売買代金の支払が所有権移転登記手続に必要な一切の書類と引換えに支払う旨が約された場合に、売主が、登記済証が滅失したため保証書による登記手続をしょうとするときには、買主に対し保証書その他の登記申請に要する書類を提供したとしても、登記官吏に対し不動産登記法四四条ノ二第二項所定の申出をしないかぎり、…
事件番号: 昭和31(オ)818 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成否を判断するにあたり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があるかは、過去の交渉経緯や取引条件の合理性を総合して判断されるべきである。本件では、本人が過去に高値での売却を主張して拒絶した経緯や、代理人が提示した価格が本人の希望を大きく下回る点等に照らし、過失が認められ表見代理は…
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…