選挙運動報酬等として供与された金銭が、一旦受供与者の手許で他の預金と共に預金された後、更に引出されて供与者に返還された場合に、その返還された金銭またはその価額を、供与者から没収または追徴することはできない。
選挙運動報酬等として供与された金銭が、受供与者の手許で、一旦他の預金と共に預金された後、供与者に返還された場合の価額の追徴
公職選挙法221条1項1号,公職選挙法224条
判旨
収賄者や買収された者が受け取った現金を銀行に預け入れるなどして、その特定性が失われた場合には、後に同額の返還を受けたとしても、供与者からその価額を追徴することはできない。
問題の所在(論点)
公職選挙法224条(没収・追徴)の適用において、供与した現金が受領者のもとで特定性を失った後、同額の金員が供与者に還流した場合、供与者からその価額を追徴することができるか。
規範
没収は、犯罪行為により得られた特定の物件を対象とするものである。授受された現金が銀行預金となるなどして特定性を喪失した場合には、その物件自体を没収することはできず、また、その後に同額の金員が供与者に還流したとしても、それは当初の物件そのものではないため、供与者から当該価額を追徴することは許されない。
重要事実
被告人は現金10万円をAに供与し、AはこれをBに預託した。Bが自己名義の銀行預金としたため、現金の特定性は失われた。その後、Aは預金から払い戻した金員のうち、一部を第三者に交付し、あるいは工事負担金に充てたが、最終的にこれらと同額の合計5万円が、第三者やAから被告人(供与者)へと返還された。原審は、この5万円について被告人から追徴できるとした。
あてはめ
本件において、被告人が供与した現金10万円は、受領者AがBを介して銀行預金とした時点で特定性を失っており、没収不能の状態に至っている。Aが預金から払い戻した金員を用いて被告人に返還した5万円は、特定性を失った後に生じた別個の金員にすぎない。したがって、没収不能となった原因はAの行為にあるにもかかわらず、その後に還流した金員を捉えて、供与者である被告人から追徴を行うことは、同条の解釈として誤りである。
結論
被告人から当該5万円を追徴することはできない。原判決の追徴部分は法令違反として破棄を免れない。
実務上の射程
没収・追徴の対象となる物件の特定性に関する判断を示したものである。賄賂や買収資金が混蔵・消費・預金化により特定性を失った場合、その後の金銭の動きが事実上の補填であっても、法的には別個の財産と評価される。答案上は、追徴の要件である「没収することができないとき」の判断において、物件の特定性喪失の有無を厳格に検討する際の根拠となる。
事件番号: 昭和30(あ)1885 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
一 被告人等が供与を受けた金銭中に他の選挙人又は選挙運動者に交付すべき金銭が含まれていたとしても、選挙運動の報酬と不可分の関係にあるのであるから全部の金銭について受供与罪が成立する。 二 公職選挙法違反事件において、審判の対象として認定されていない金員を被告人から没収した判決は、刑訴第四一一条第一号により破棄を免れない…