一 道路交通取締法施行令第六七条第二項にいう「事故の内容」とは、その発生した日時、場所、死傷者の数及び負傷の程度並に物の損壊及びその程度等交通事故の態様に関する事項を指すものと解すべきである。 二 同条項中事故の内容の報告義務を定めた部分は、憲法第三八条第一項に違反しない。
一 道路交通取締法施行令第六七条第二項にいう「事故の内容」の意義 二 同条項中事故の内容の報告義務を定めた部分の合憲性。
道路交通取締法24条1項,道路交通取締法28条1号,同法施行令67条1項,同法施行令67条2項,憲法38条1項
判旨
交通事故の報告義務(旧道路交通取締法施行令67条2項)は、警察官が救護や交通秩序の回復等の適切な措置を講ずるために必要な限度でのみ課されるものであり、刑事責任を問われるおそれのある事項までを含むものではないため、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
交通事故の発生時、運転者に警察官への報告を義務付ける規定(旧道路交通取締法施行令67条2項)が、自己に不利益な供述の強要を禁じた憲法38条1項に抵触するか。また、義務の対象となる「事故の内容」に、刑事上の不利益を招く事項が含まれるか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障する。もっとも、行政上の報告義務が、交通事故の発生に伴う被害者救護や交通秩序の回復という道路交通安全の目的達成のため、警察による処理に必要かつ合理的な範囲(日時、場所、死傷者の数、損壊の程度等)に限られるのであれば、それは「事故の態様」に関する事項の報告に過ぎず、刑事責任を問われるおそれのある「事故の原因」等の供述を強要するものとはいえない。
重要事実
被告人は自動車の運転により事故を発生させたが、所轄警察署の警察官に対し事故の報告を行わず、指示を受けなかった。第一審及び控訴審は、道路交通取締法24条1項及び同法施行令67条2項に基づき、報告義務違反として有罪を宣告した。これに対し被告人側は、同施行令が定める「事故の内容」の報告義務は、自己に不利益な供述(過失の有無等)を強要するものであり、憲法38条1項に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和36(あ)411 / 裁判年月日: 昭和37年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交通事故の報告義務(道路交通取締法施行規則67条2項、現行法72条1項後段)において「事故の内容」の報告を課すことは、憲法38条1項の自己負罪拒否特権および憲法31条の適正手続に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、自動車を運転中に業務上の過失により事故(致死)を発生させたが、負傷者の救護や道…
あてはめ
本件義務の目的は、警察による迅速な被害救護や交通被害増大の防止、安全確保にある。この目的に照らせば、同条にいう「事故の内容」とは、事故の日時、場所、死傷者の数、物の損壊程度といった「事故の態様」に関する客観的事項を指す。これは警察官が事後処理をなすに必要な限度での報告を求めるものであり、刑事責任を問われるおそれのある「事故の原因」などは含まれないと解される。したがって、客観的事実の報告を命ずることは、刑事上の不利益な供述を強要するものとは評価できない。
結論
本件報告義務は憲法38条1項に違反しない。したがって、報告を怠った被告人を処罰した原判決に憲法違反の違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
現行の道路交通法72条1項後段の報告義務についても同様に解釈される。答案上、行政上の報告義務と黙秘権の関係が問題となる際、報告義務の目的が公共の福祉に適い、かつ報告対象が客観的事態に限定され、刑事責任の核心(故意・過失等)に及ばない場合には合憲とするための判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和49(あ)2739 / 裁判年月日: 昭和50年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定される交通事故の報告義務は、憲法38条1項の自己に不利益な供述を強要されない権利に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際に道路交通法72条1項後段に基づく事故報告を行わなかった。これに対し、当該報告義務の規定が憲法38条1項(自己負罪拒否特権)…
事件番号: 昭和34(あ)1267 / 裁判年月日: 昭和37年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】交通事故の運転者に対する被害者の救護義務(道路交通法72条1項前段参照)は、刑事責任の追及を目的とする供述の強要とは無関係であり、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は自動車の運転中に交通事故を起こしたが、被害者の救護措置を講じなかった。この点について、当時の道路交通取締法施行令…