一 憲法第三九条後段の規定は、一の犯罪につき、裁判により処罰された上は、同一の犯罪について重ねて処罰されない趣旨を定めたものである。 二 刑罰法令で一の犯罪に対する法定刑として、主刑及び犯罪に係る物の没収又はこれに代る追徴を、併科しうるべき旨の現定がある場合において、右規定に従い、一の裁判によりその一個の犯罪につき、法定の主刑及び没収又はこれに代る追徴を併科することは、憲法同条後段の禁止するところではない。
一 憲法第三九条後段の法意 二 刑罰法令の規定に従い一の犯罪につき法定の主刑を科した上、没収又は追徴を科することは右憲法の規定に違反するか
憲法39条,旧関税法(昭和29年法律61号による改正前のもの)75条1項,旧関税法(昭和29年法律61号による改正前のもの)83条
判旨
憲法39条後段が禁じる「二重の処罰」とは、一の犯罪につき確定判決があるにもかかわらず重ねて処罰することを指す。一つの裁判により、一つの犯罪に対して主刑と没収・追徴を併科すること、および別途徴収された関税に加えて刑事罰を科すことは、いずれも同条に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 一の裁判により、同一の犯罪に対して主刑(懲役・罰金)と没収・追徴を併科することが憲法39条後段にいう「重ねて処罰」することに該当するか。 2. 逋脱された関税の行政的徴収と、同一の行為に対する刑事罰の併科が、憲法39条後段に違反するか。
規範
憲法39条後段の規定は、一の犯罪につき、裁判により処罰された上は、同一の犯罪について重ねて処罰されない趣旨を定めたものである。したがって、刑罰法令に従い一の裁判によって一個の犯罪につき主刑および没収または追徴を併科することは同条に違反しない。また、行政処分として徴収される租税等は刑事処分ではないため、これと刑事罰が併科されても二重処罰には当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和33(あ)1844 / 裁判年月日: 昭和38年5月29日 / 結論: 棄却
(裁判官奥野健一の少数意見)職権により調査するに、本件没収に係る貨物は被告人ら以外の第三者であるA冷房株式会社の所有に属するものであることは記録上明白であり、その所有者である第三者に対し告知、弁解、防禦の機会を与えることなく没収することは憲法上許されないことは当裁判所の判例とするところであるが、被告人Bは第一審当時本件…
被告人は、輸入貨物について不実の低価申告を行い、関税を免脱した(関税法違反)。第一審は、一個の関税逋脱罪に対し、主刑(懲役・罰金)に加えて、当該貨物およびその価額相当額の没収・追徴を命じた。被告人側は、主刑と没収・追徴の併科は二重処罰に当たり憲法39条に違反すると主張。また、免脱した関税が別途追徴されていることから、これに加えて刑事罰を科すことも二重処罰に当たると主張して上告した。
あてはめ
1. 本件において、主刑と没収・追徴の言渡しは、被告人の一個の関税逋脱罪に対する法定刑の範囲内で行われた「一の裁判」によるものである。これは一の犯罪に対する一体的な処断であって、確定判決後に再度処罰する「二重の処罰」には該当しない。 2. 被告人が免脱したため別途徴収された関税は、租税徴収という行政上の目的に基づくものであり、刑事処分としての性質を有しない。したがって、これら行政上の徴収と刑事罰をあわせて科したとしても、同一の犯罪について「裁判により重ねて処罰」したことにはならない。
結論
憲法39条後段の解釈に誤りはなく、本件の併科および刑事罰の賦課は合憲である。上告棄却。
実務上の射程
二重処罰の禁止(ノン・ビス・イン・イデム)の意義を明確化した重要判例である。答案上は、①併科(主刑と付加刑、あるいは複数の主刑)が一つの手続内で行われる場合、および②行政上の不利益処分(課徴金や税の徴収等)と刑事罰が併存する場合のいずれもが憲法39条に違反しないことを論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(あ)1772 / 裁判年月日: 昭和38年12月4日 / 結論: 破棄差戻
一 上訴審が、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法施行前、第三者に告知聴問の機会を与えることなくその所有物を没収した第一審判決を破棄する場合、同法施行後においては、当該事件を第一審に差し戻して、同法所定の手続を履践させるのが相当である。 二 関税法第一一八情の犯罪貨物が数人の犯人の間に転々譲渡された…