一 上訴審が、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法施行前、第三者に告知聴問の機会を与えることなくその所有物を没収した第一審判決を破棄する場合、同法施行後においては、当該事件を第一審に差し戻して、同法所定の手続を履践させるのが相当である。 二 関税法第一一八情の犯罪貨物が数人の犯人の間に転々譲渡された場合、最終知情取得者が通告処分の履行として右貨物を税関に納付し、あるいは犯人の一人が通告処分の履行として追徴金相当額を税関に納付した後は、他の犯人に対し同条による追徴の言渡をすることは許されない。 三 昭和三八年法律第一三八号刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法は、同法施行前の犯行について、現に第一審に係属しまたは将来第一審に係属する被告事件に同法を適用しても、刑罰法規不遡及または事後立法禁止を定めた憲法第三九条の法意に反するものといえない。
一 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法施行前第三者所有物を没収した第一審判決を破棄する場合と同法施行後において上訴審のとるべき措置 二 関税法第一一八条の犯罪貨物が数人の犯人の間に転々譲渡された場合、最終知情取得者または犯人の一人が右貨物またはその価格を通告処分の履行として税関に納付した場合における他の犯人に対する追徴の適否 三 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の適用と憲法第三九条
関税法118条1項,関税法118条,関税法138条,刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法1条,刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法(昭和38年法律138号),刑訴法400条本文,刑訴法413条本文,憲法39条
判旨
第三者の所有物を没収する場合、当該第三者に告知・弁解・防禦の機会を与えることが憲法31条・29条により必要であり、これを欠く没収は違憲である。また、犯罪貨物が転々譲渡され、最終取得者が任意に納付、または関係者から追徴金が納付された後は、他の関係者から重ねて追徴することはできない。
問題の所在(論点)
1. 第三者の所有物について、当該第三者に適正手続を保障することなく没収を科すことは許されるか(憲法31条・29条違反の成否)。 2. 関税法違反の犯罪貨物が既に国庫に帰属、または追徴金が納付されている場合、他の共犯者等に重ねて追徴を科すことは可能か(二重追徴の可否)。
規範
1. 被告人に対する付加刑として第三者の所有物を没収するには、当該第三者に対し、法律の定める手続に従い予め告知、弁解、防禦の機会を与えることを要する。これがない没収は、適正な法律手続によらずに財産権を侵害する制裁を科すものであり、憲法31条、29条に違反する。 2. 関税法上の犯罪貨物が順次譲渡された場合、既にその一部が国庫に帰属(任意納付等)し、または一人の犯人から価格相当額が追徴された後は、実質上没収がなされたのと同様であるから、他の犯人に対し重ねて追徴の言渡しをすることはできない。
重要事実
被告人は関税法違反の罪に問われた。第一審判決(原判決も支持)は、(1)スイス製腕時計の一部につき、最終取得者が税関の通告処分に応じ既に納付していたにもかかわらず被告人に追徴を科し、(2)第三者の所有に属する腕時計について当該第三者に告知・弁解の機会を与えず没収を言い渡し、(3)別の腕時計についても、既に買受人が追徴金を納付していたにもかかわらず、重ねて被告人に追徴を言い渡した。
あてはめ
1. 本件没収対象の外国製腕時計は被告人以外の第三者の所有に属することが記録上認められる。しかし、当該所有者に対し告知等の機会が与えられていないため、適正手続を欠き違憲である。 2. (1)の腕時計は、知情取得者が税関に納付した時点で実質的に没収と同視できる。また、(3)の腕時計は、百貨店が既に追徴金を納付し国庫に帰属している。いずれも目的を達しており、被告人に対し重ねて追徴を科すことは関税法の解釈適用を誤った違法がある。
結論
第三者所有物の没収には告知・弁解の機会が必要であり、これがない没収および既に国庫に帰属した後の二重追徴は認められない。原判決および第一審判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
刑事訴訟において第三者所有物を没収する際の手続的保障を確立した重要判例である。現在は本判決を受けて制定された「刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法」および刑事訴訟法に基づき、第三者の訴訟参加手続(刑訴法290条の2以下参照)が必要となる。答案上は、没収の適正手続の根拠として憲法31条と共に引用する。
事件番号: 昭和30(あ)995 / 裁判年月日: 昭和37年11月28日 / 結論: 破棄自判
一 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前の関税法をいう。)第八三条第一項の規定により第三者の所有物を没収することは、憲法第三一条、第二九条に違反する。 二 前項の場合、没収に言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、これを違憲であるとして上告をすることができる。