本件のように原判決に、審理不尽、理由不備の欠陥があり、その欠陥が延いて原判決を破棄するのでなければ著しく正義に反するものと認められる程の事実誤認を導き出しているときは、刑訴第四一一条第一号、第三号により原判決を破棄すべきである。
原判決に審理不尽、理由不備の欠陥があり、延いて事実誤認ありとして破棄した事例
刑訴法441条1号,刑訴法441条3号
判旨
事実審裁判官は、供述の一部に虚偽や変遷がある場合でも、その分析のみにとらわれず、事件全体の客観的事実と照らし合わせて供述の核心(大筋)の信憑性を判断すべきである。
問題の所在(論点)
供述内容に度重なる変遷や部分的な虚偽が含まれる場合、事実審裁判所はいかなる視点からその信憑性を判断すべきか。また、供述の断片的な矛盾のみを理由に供述全体を排斥することは許されるか。
規範
事実審裁判官は、被告人や証人の供述を検討する際、部分的な分析解明にのみ力を注ぐのではなく、事件全体の把握を怠ってはならない。供述に記憶違い、食い違い、誇張による虚偽が含まれる場合であっても、直ちにその全てを排斥するのではなく、供述内容が事案の大筋(核心部分)において客観的事実や他の証拠と整合しているか否かを基準に、信憑性を判断すべきである。
重要事実
山口県で発生した強盗殺人事件(通称:八海事件)において、共犯者とされたAは、逮捕当初から犯行態様や共犯者の数について「単独」「二人」「五人」「六人」と供述を二転三転させた。原審は、Aの供述に多くの虚偽が含まれること、および他の被告人らの自白が拷問等の不当な取調べにより任意性に疑いがあることを理由に、Aの単独犯行と断定して他の被告人らに対し無罪を言い渡した。これに対し検察官が上告した事案である。
あてはめ
最高裁は、Aの供述に変遷やデタラメが含まれることを認めつつも、その動機(共犯者への義理や取調官への反応等)を考慮すれば、逆に「自分以外の犯行者の存在」を暗示するものと評価できるとした。また、Aが最終的に固執した「五人共犯説」は、惨憺たる現場の状況や他の被告人らのアリバイの崩壊といった客観的事実と大筋で合致していると指摘。原審が供述の部分的矛盾にとらわれ、事件全体の大局的な把握を怠ったことは、事実誤認を導く審理不尽・理由不備の違法があると判示した。
結論
原判決には審理不尽および理由不備の欠陥があり、これが事実誤認を導いたものと認められる。したがって、原判決を破棄し、広島高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
司法試験においては、供述証拠の信用性評価(伝聞例外の要件検討等)における「信用性の情況的保障」や「自由心証主義の限界」の論脈で活用できる。特に「些細な矛盾があっても大筋で客観的事実と合致すれば信用性を肯定できる」という論理は、実務的な事実認定のスタンダードとして答案に盛り込むべき視点である。
事件番号: 昭和41(あ)108 / 裁判年月日: 昭和43年10月25日 / 結論: 破棄自判
一 犯行と被告人らとの結びつきに関する原判決の事実認定に不合理なところがあるときは(判文参照)、刑訴法第四一一条第三号により原判決を破棄しなければならない。 二 破棄判決の破棄の理由とされた事実上の判断は、拘束力を有する。 三 破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的、否定的判断についてのみ生…