日本共産党佐賀県委員会の機関紙である新聞「A」第七号の広告欄に掲載された「祝発展、佐賀県労働基準局長B」なる広告文は、同人において右A紙の発展に祝意を表明するとの趣旨を記載した同人名義の私文書であつて、刑法第一五九条第一項にいわゆる「事実証明に関する文書」にあたる。
新聞紙上の広告文が刑法第一五九条第一項にいわゆる「事実証明に関する文書」にあたるとされた事例。
刑法159条1項
判旨
刑法159条1項の「事実証明に関する文書」とは、権利義務に関する事項以外の事項であっても、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいう。公務員の地位にある者が特定政党の機関誌の発展を祝賀する旨の広告文は、これに該当する。
問題の所在(論点)
刑法159条1項の「事実証明に関する文書」の意義、および公務員名義の祝賀広告がこれに該当するか。
規範
刑法159条1項にいう「事実証明に関する文書」とは、実生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書を指す。これは権利義務に関する事項に限定されず、社会生活上の利害関係に影響を及ぼすような事実を証明する内容であれば足りる。
重要事実
被告人は、日本共産党佐賀県委員会の機関誌「A」に対し、当時の佐賀県労働基準局長であるBの名義で、「祝発展、佐賀県労働基準局長B」という広告文を掲載した。この広告は、Bが同紙の発展に祝意を表明するという内容であったが、実際にはBの承諾なく作成されたものであった。弁護人は、当該広告文が権利義務に関する事項ではないため、私文書偽造罪の対象となる文書には当たらないと主張した。
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…
あてはめ
本件の広告文は、公務員の地位にある者が、特定の政党機関誌の発展を祝賀しているという事実を示すものである。このような事実は、単なる個人的な心情の吐露にとどまらず、公務員の政治的中立性や社会的立場に照らせば「社会生活に交渉を有する事項」に属すると認められる。したがって、かかる事項を証明するに足りる文書である以上、権利義務に関する事項でないとしても、事実証明に関する文書に該当すると解するのが相当である。
結論
本件広告文は刑法159条1項の「事実証明に関する文書」に該当し、私文書偽造罪が成立する。
実務上の射程
本判決は「事実証明に関する文書」を広範に定義しており、履歴書、推薦状、証明書といった典型例に限らず、社会的な信用や評価に影響を与える文書全般を包摂する。答案上は、当該文書が証明しようとする事実が「社会生活上の利害関係に関わるか」という観点からあてはめを行うべきである。
事件番号: 昭和42(あ)361 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
「人の噂であるから真偽は別として」という表現を用いて公務員の名誉を毀損する事実を摘示した場合において、刑法第二三〇条ノ二所定の事実の証明の対象となるのは、風評そのものの存在ではなく、その風評の内容たる事実が真実であることと解すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)2010 / 裁判年月日: 昭和29年4月15日 / 結論: 棄却
一 文書偽造罪における行使の目的は、必ずしも本来の用法に従つて、これを真正なものとして使用することに限るものではなく、真正な文書としてその効用に役立たせる目的があれば足りる。 二 公文書とは、公務所又は公務員がその名義をもつてその権限内において所定の形式に従い作成すべき文書を指し、実生活に交渉を有する事項の証明又は権利…
事件番号: 昭和29(あ)466 / 裁判年月日: 昭和31年7月13日 / 結論: 棄却
原判決において、京都市a区の役所の外国人登録事務の一係員たる被告人Aが、外国人登録証明を受ける資格のない者に同証明書を交付する目的で、不正の同証明書交付申請を故らに正当のものとして受理した上、情を知らない他の同係員の手により同区長作成名義の同証明書を調製せしめ、かつ同区長の職印を冒捺させて、同証明書を偽造した事実を認定…
事件番号: 昭和28(あ)3367 / 裁判年月日: 昭和30年6月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実在しない架空の公務員名義を用いた文書であっても、一般人が公務員により作成された真正な文書と誤認するに足りる外観を備えている場合には、公文書偽造罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、実際には存在しない「A検査員B」という架空の公務員名義を用いて文書を作成し、これを行使した。第一審判決および原…