一 刑法第一九七条にいう「其職務」とは、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が具体的に担当している事務であることを要しない。 二 熊本県八代地方事務所農地課勤務の事務吏員は、日常担当しない事務であつても、同課に属する農地および農業用施設等災害復旧工事につき事業主体のなす工事請負契約締結の方法、競争入札の実施、その際における予定価格の決定などを指導監督する職務権限をも有する。
一 刑法第一九七条にいう「其職務」の意義 二 熊本県八代地方事務所農地課勤務の事務吏員の職務権限
刑法197条,刑法197の3第1項,熊本県地方事務所処務規程(昭和24年熊本県訓令254号)1条,熊本県地方事務所処務規程(昭和24年熊本県訓令254号)6条,熊本県地方事務所処務規程(昭和24年熊本県訓令254号)8条3項
判旨
収賄罪の「職務」とは、公務員の一般的職務権限に属すれば足り、現に具体的に担当している事務であることを要しない。事務分担は課内の便宜的な標準にすぎず、法令上の職務権限を左右するものではない。
問題の所在(論点)
特定の公務員が、所属部署の分掌事務ではあるが内部的な事務分担表では担当外とされている事務について賄賂を得た場合、刑法197条の「職務」に該当するか。
規範
刑法197条にいう「其職務」とは、当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が現に具体的に担当している事務であることを要しない。法令上、当該部局の分掌事務として規定されている事項は、上司の命を受けて処理し得べき一般的権限に含まれる。これに対し、組織内部での事務分担表による担当の割り振りは、便宜上の事務分配の標準にすぎず、公務員の職務権限を制限するものではない。
重要事実
熊本県八代地方事務所農地課の事務吏員であった被告人Cは、農地等の災害復旧工事に関する請負契約の予定価格決定等に関与し、賄賂を収受した。当時の県規定では、災害復旧工事は農地課の分掌事務とされていたが、課内の事務分担表では、Cは開拓関係事務や庶務の担当であり、当該工事は別の技師らの担当とされていた。原審は、Cに当該工事に関する具体的職務権限がなかったとして無罪を言い渡したため、検察官が上告した。
あてはめ
熊本県地方事務所処務規程によれば、農地課の事務には耕地の災害復旧に関する事項が明記されており、これには工事の指導監督も含まれる。被告人Cは農地課勤務の事務吏員であるから、たとえ日常的に担当しない事務であっても、課の分掌事務に属する以上、上司の命を受けて処理し得る一般的権限を有していたといえる。事務分担表において別の技師が主査・副査とされていた事実は、組織運営上の便宜にすぎず、Cの法令上の職務権限を否定する根拠にはならない。
結論
被告人Cが当該工事の予定価格決定等に関与することは、その職務に該当する。したがって、無罪とした原判決には法令違反があり、破棄を免れない。
実務上の射程
職務権限の有無を判断する際、組織図や事務分掌規定といった「一般的職務権限」を重視し、個別の「具体的担当」を不要とする実務上の基準を確立した。答案では、被告人の具体的担当外であっても、所属部署の一般的権限に含まれる事実を指摘して「職務」性を認める際に活用すべき判例である。
事件番号: 昭和32(あ)2177 / 裁判年月日: 昭和33年3月13日 / 結論: 棄却
京都市中央市民病院の薬剤科部長として薬剤の調剤、製剤、検査、保管、整理等の事務を担任している者が、同病院の薬品の購入につき要求伝票を作成することは、その本来の職務と密接な関係にある行為に属し、薬品の購入に対する謝礼として薬品会社の社員より財物を収受し、饗応を受ける所為は収賄罪を構成する。
事件番号: 昭和35(あ)377 / 裁判年月日: 昭和37年4月24日 / 結論: 棄却
大蔵事務官として新潟税務署所得税第一係に勤務していた職員は、調査班に所属すると総括班に所属するとにかかわりなく、また係主管者から分担を命ぜられた担当区域および業種にかかわりなく、同第一係の分掌事務全般にわたつてこれに従事する法令上の職務権限を有する旨判示した原判決は、正当である。