京都市中央市民病院の薬剤科部長として薬剤の調剤、製剤、検査、保管、整理等の事務を担任している者が、同病院の薬品の購入につき要求伝票を作成することは、その本来の職務と密接な関係にある行為に属し、薬品の購入に対する謝礼として薬品会社の社員より財物を収受し、饗応を受ける所為は収賄罪を構成する。
収賄罪を構成する一事例
刑法197条,京都中央市民病院事務分掌規則
判旨
収賄罪の「職務」とは、公務員の法令上の本来の職務権限に属する事務のみならず、これと密接な関係にある行為も含まれる。また、提供された金員が名目上は値引払戻金であっても、実態として職務に対する謝礼であれば、賄賂にあたると解される。
問題の所在(論点)
1. 事務規則上の本来の職務権限に属しない行為(要求伝票の作成)が、収賄罪の「職務」に含まれるか。 2. 値引払戻金という名目で交付された金員が「賄賂」にあたるか。
規範
刑法197条1項の「職務」とは、公務員の職制上の職務権限に属する事務だけでなく、これと密接な関係にある行為も含まれる。また、「賄賂」とは、公務員の職務に対する対価としての不法な利益をいい、交付の際の名目に関わらず、実態として職務に対する謝礼の趣旨が含まれていればこれに該当する。
重要事実
京都市中央市民病院の薬剤科部長である被告人が、同病院の薬品購入に際して要求伝票を作成し、業者から金員を受領した。被告人には事務規則上の本来の職務権限として伝票作成権限はなく、また値引払戻金を受領する権限もなかった。被告人は受領した金員について「既納薬品に対する値引払戻金」であると主張した。
あてはめ
1. 被告人による薬品購入の要求伝票作成は、病院事務規則上の本来の職務ではないが、薬剤科部長として薬剤科に属する薬品の保管整理に関する本来の職務に従事している以上、これと密接な関係にある行為といえる。したがって、収賄罪の「職務」に該当する。 2. 被告人には値引払戻金を受領すべき職務権限がなく、交付された金員の実態は被告人の職務に対する謝礼であると認められる。したがって、名目が値引払戻金という口実であっても、その趣旨は職務に対する謝礼(不法な利益)であり、賄賂にあたると解される。
結論
被告人の行為は収賄罪(刑法197条1項前段)を構成する。
実務上の射程
公務員の職務権限を広く捉える「密接関係行為」の法理を確認した事例。答案上は、職務権限の有無を検討する際、事務分配上の直接の権限が欠ける場合であっても、本来の職務と実態として密接に関係していれば「職務」性を肯定する根拠として活用できる。また、賄賂性の判断においては、形式的な名目に拘泥せず、職務との対価性という実態から判断すべきことを示している。
事件番号: 昭和32(あ)703 / 裁判年月日: 昭和33年6月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が受けた饗応に、職務外の行為への謝礼だけでなく、本来の職務権限に属する事務に関する謝礼の趣旨も含まれている場合は、収賄罪(刑法197条)が成立する。また、行政組織上の補助機関であっても、知事等の指揮監督を受け実質的な決裁権限を有する限り、その事務について職務権限が認められる。 第1 事案の概…