同一の裁判官が公職選挙法第二二一条違反の罪における金員の被供与者の公判審理により、金員供与者たる被告人に対する事件の内容につき知識を得たからとて、その一事をもつて忌避の理由があるものとすることはできない。
裁判官が関係事件の審理によつて被告事件の内容につき知識を得たことと忌避の理由
刑訴法21条
判旨
同一の裁判官が共犯者の公判審理により被告人に対する事件の内容に関し知識を得たとしても、その一事をもって刑事訴訟法21条にいう「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当し忌避の理由があるものとすることはできない。
問題の所在(論点)
同一の裁判官が共犯者の公判審理に関与し、被告人の事件内容に関する知識を得たことが、刑事訴訟法21条1項に規定される「裁判の公正を妨げるべき事情(不公平な裁判をする虞)」に該当するか。
規範
刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」とは、裁判官が事件の当事者、事件の内容、または審理の経過等に鑑み、客観的な事情により裁判の公正を期待し得ない事情がある場合を指す。裁判官が職務上、関連する他の事件(共犯者の公判等)に関与し、当該事件の内容に関する知識を得たという事実のみでは、直ちに予断を生じさせる不公平な事情があるとは認められない。
重要事実
被告人と共同関係にある他の共犯者に対し、同一の裁判官が公判審理を行い、同一の公訴事実について有罪の言渡しをした。その後、当該裁判官が被告人の事件についても審理を担当することとなったため、被告人側は、裁判官が共犯者の審理を通じて被告人の事件につき予断を生じさせる知識を得ているとして、忌避を申し立てた。
事件番号: 昭和31(し)3 / 裁判年月日: 昭和31年9月25日 / 結論: 棄却
被告人に対する背任の公訴事実と社会的事実関係を同じくする民事訴訟事件の審判に関与した裁判官が、右背任被告事件について合議体の一員として審判に関与しても、それだけでは刑訴第二一条第一項に該当せず、また憲法第三七条第一項の公平な裁判所ではないとはいえない。
あてはめ
本件において、抗告人は、裁判官が共犯者の公判を通じて被告人の事件内容に関する知識を得たことを問題とする。しかし、裁判官が適法な職務執行である共犯者の公判審理を通じて知識を得ることは、裁判制度上当然に起こり得る事態である。このような職務上の知識習得は、その一事をもって直ちに被告人に対する裁判において偏頗な裁判をする客観的な事情があるとは評価できない。したがって、特定の予断を裏付ける特段の事情がない限り、忌避の理由には当たらないと解される。
結論
同一の裁判官が共犯者の公判審理により被告人の事件内容に関する知識を得たとしても、その一事をもって忌避の理由があるものとすることはできない。
実務上の射程
裁判官が別件(共犯者の事件)で確定的な心証を形成している可能性があっても、職務上の関与のみでは忌避事由を否定する。司法試験においては、忌避の客観的な必要性(外観上の公正)を論ずる際、職務上の知識習得という事実だけでは不十分であることを示すための否定例として活用できる。
事件番号: 昭和44(し)81 / 裁判年月日: 昭和45年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官に不公平な裁判をするおそれがあるとするには、単に主観的な懸念があるだけでは足りず、客観的な事実に基づき、通常人が不公平な裁判が行われると信じるに足りる状況が必要である。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、正田裁判官について、特定の事実関係(詳細は判決文からは不明)を理由に、同裁判官が不公平…
事件番号: 昭和36(し)21 / 裁判年月日: 昭和36年6月14日 / 結論: 棄却
裁判官が共犯者に対して被告人との共謀にかかる公訴事実につき有罪の判決をしたことだけでは、被告人に対する右公訴事実につき審判をするにあたつて忌避の原因とはならない。
事件番号: 昭和31(ク)111 / 裁判年月日: 昭和31年5月18日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法上特に許容された場合に限られ、民事事件においては旧民訴法419条の2(現行民訴法336条)に規定する特別抗告の場合に限定される。 第1 事案の概要:抗告人は、裁判官の忌避の原因につき疎明がないとした原審の判断を不服として、最高裁判所に抗告を申し立て…
事件番号: 昭和42(し)37 / 裁判年月日: 昭和42年8月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同一の裁判官が共犯者の公判審理を担当し、被告人の事件内容に関する知識を得ていたとしても、それのみでは不公平な裁判をするおそれがあるとはいえず、裁判官の忌避事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人らの事件に関し、担当裁判官がこれより先に共犯者の公判審理を行っていた。被告人側は、当該裁判官が共犯…