被告人に対する背任の公訴事実と社会的事実関係を同じくする民事訴訟事件の審判に関与した裁判官が、右背任被告事件について合議体の一員として審判に関与しても、それだけでは刑訴第二一条第一項に該当せず、また憲法第三七条第一項の公平な裁判所ではないとはいえない。
社会的事実関係を同じくする民事訴訟の審判に関与した裁判官による合議体の構成と公平な裁判所
憲法37条1項,刑訴法21条1項
判旨
刑事被告事件と社会的事実関係を同じくする民事訴訟事件の審判に関与した裁判官が、後に当該刑事事件の審判に関与したとしても、直ちに「不公平な裁判をする虞」(刑訴法21条1項)があるとはいえず、憲法37条1項にも反しない。
問題の所在(論点)
裁判官が、刑事被告事件の公訴事実と社会的事実関係を同じくする民事訴訟事件の審判に関与した後、当該刑事被告事件の審判に関与することが、刑事訴訟法21条1項の「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当し、憲法37条1項の「公平な裁判所」に反するか。
規範
裁判官が職務の執行から除斥されるべき事情(刑訴法20条各号)に当たらない限り、単に過去に同一の事実関係に基づく別個の裁判に関与したという事実のみをもって、直ちに刑事訴訟法21条1項にいう「不公平な裁判をする虞」があるとは認められない。また、かかる運用は憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」の要請にも反するものではない。
重要事実
申立人は背任罪に問われていた。これに対し、本件の公訴事実と社会的事実関係を同一にする民事訴訟事件について審判に関与した裁判官が、その後、同一の背任被告事件において合議体の一員として審判に関与した。申立人は、この裁判官の関与が不公平な裁判にあたるとして争った。
事件番号: 昭和53(し)11 / 裁判年月日: 昭和53年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告事件の審理を担当する裁判官が、当該事件に関する準抗告の裁判に裁判長として関与したという事実のみでは、直ちに憲法37条1項にいう「不公平な裁判所」にあたるとはいえない。 第1 事案の概要:被告事件の審理を担当している裁判官が、当該事件に関連して提起された準抗告の裁判に、裁判長裁判官として関与した…
あてはめ
本件において、当該裁判官は以前に本件背任事件と事実関係を共通にする民事事件の審判を行っている。しかし、民事裁判と刑事裁判は別個の手続きであり、そこで得られた心証が直ちに刑事裁判における予断を形成し、不公平な裁判を招くものとは断定できない。したがって、同一の社会的事実関係を扱う民事訴訟に関与したという一事をもって、客観的に裁判の公平を疑わせる具体的な事情があるとは評価できない。
結論
本件裁判官の関与は刑事訴訟法21条1項および憲法37条1項に違反しない。
実務上の射程
裁判官の忌避・除斥に関する論点。刑訴法20条各号(除斥事由)に該当しない前審関与については、本判例の通り限定的に解釈される。答案上は、職務執行の公正を妨げる具体的・客観的な事情の有無を検討する際の否定例として活用できる。
事件番号: 昭和31(し)23 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
同一の裁判官が公職選挙法第二二一条違反の罪における金員の被供与者の公判審理により、金員供与者たる被告人に対する事件の内容につき知識を得たからとて、その一事をもつて忌避の理由があるものとすることはできない。
事件番号: 昭和47(し)78 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官が不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない場合、刑事訴訟法24条1項に基づく忌避の申立ては却下されるべきである。本決定は、具体的な記録に照らし、憲法37条1項等の違反がないことを確認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、背任被告事件の担当裁判長である金子裁判長に対し、不公平な裁…
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…
事件番号: 昭和47(し)77 / 裁判年月日: 昭和47年10月13日 / 結論: 棄却
被告人に対する恐喝事件の受訴裁判所の裁判官として被告人に対する勾留更新決定を行ない、また保釈請求却下決定を行なつた裁判官が、その後右事件につき合議体で審理する旨の決定がなされ、右事件を審理する合議体の構成員になつたことは所論の通りであるが、そのために同裁判官が職務から除斥されることがないことは勿論、忌避の理由があるもの…