裁判官が共犯者に対して被告人との共謀にかかる公訴事実につき有罪の判決をしたことだけでは、被告人に対する右公訴事実につき審判をするにあたつて忌避の原因とはならない。
共犯者に対して有罪の判決をした裁判官と忌避の原因。
刑訴法20条,刑訴法21条
判旨
裁判官が、同一の公訴事実について共犯者を先に有罪とした確定判決に関与していたとしても、刑事訴訟法20条7号の除斥事由には当たらず、当然には不公平な裁判をするおそれがある(同法21条1項)ともいえない。
問題の所在(論点)
裁判官が被告人の共犯者に対する別個の刑事事件において、被告人との共謀事実を含む同一の公訴事実を認定し有罪判決を下していた場合、刑事訴訟法20条7号の除斥事由に当たるか。また、同法21条1項の忌避原因(不公平な裁判をするおそれ)に当たるか。
規範
刑事訴訟法20条7号が定める除斥事由である「裁判官が事件について前審の裁判に関与した」とは、同一被告人の同一事件についての上下の審級関係を指し、別個の被告人に関する裁判への関与は含まれない。また、不公平な裁判をするおそれ(同法21条1項)の有無は、裁判官が客観的に職務執行の公平を疑わせる事情があるか否かで判断されるべきであるが、共犯者の裁判において同一の事実認定に関与したことのみをもって、直ちにその原因があるとはいえない。
重要事実
被告人Aは、共犯者Bと共謀して3回にわたり投票買収を行ったとして第一審で有罪判決を受けた。Aが控訴したところ、控訴審(名古屋高裁金沢支部)の裁判長裁判官Cおよび裁判官Dは、先に共犯者Bに対し、Aと共謀して投票買収をしたという同一の事実に基づき有罪判決を言い渡していた。Aは、これらの裁判官がBの事件で既にAとの共謀事実を認定している以上、前審関与の除斥事由の趣旨に則り、不公平な裁判となるおそれがあるとして忌避を申し立てたが、却下されたため特別抗告に及んだ。
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…
あてはめ
刑事訴訟法20条各号は除斥事由を限定的に列挙しており、本件のように共犯者の別事件の裁判に関与した場合は、同条7号の「前審の裁判」には該当しない。また、裁判官が以前に共犯者の事件で特定の事実認定を行ったとしても、それは別個の証拠に基づく別個の判断であり、直ちに本案被告人に対して予断をもって不公平な裁判を行う客観的な事情があるとは認められない。したがって、本件における裁判官CおよびDの関与は、法21条1項の忌避原因にも当たらない。
結論
本件の裁判官らは除斥事由に該当せず、また共犯者の裁判に関与した事実のみでは忌避の原因となる不公平な裁判をするおそれがあるとはいえないため、特別抗告は棄却される。
実務上の射程
司法試験においては、裁判官の除斥(20条)と忌避(21条)の区別、および20条7号の「前審」の意義を問う論点で使用する。共犯者の裁判への関与は除斥事由にはならないという結論を維持しつつ、実務上は「不公平な裁判をするおそれ」の有無を具体的事案に即して検討する際の基準として引用する。
事件番号: 昭和30(し)41 / 裁判年月日: 昭和30年12月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯関係にある被告人らが各別に審理される場合において、一主体の裁判官が一方の被告人に有罪判決を言い渡した事実は、直ちに他方の被告人の裁判における除斥及び忌避の事由(刑事訴訟法20条、21条)には当たらない。 第1 事案の概要:公職選挙法違反の事案において、選挙運動報酬を供与した側(贈賄側)の被告人…
事件番号: 昭和36(し)44 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
裁判官忌避の申立を却下した裁判の取消請求は、原裁判を取り消しても実益がないようになつたときは、これを許すべきものでないと解すべく、本件取消請求は既にその申立の利益を失つたものと認められるから、本件特別抗告は、右請求棄却決定の当否について裁判をする実益がなく、結局その理由がないことに帰する。
事件番号: 昭和31(し)23 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
同一の裁判官が公職選挙法第二二一条違反の罪における金員の被供与者の公判審理により、金員供与者たる被告人に対する事件の内容につき知識を得たからとて、その一事をもつて忌避の理由があるものとすることはできない。
事件番号: 昭和46(し)56 / 裁判年月日: 昭和46年7月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官について、不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない場合には、憲法32条に違反せず、忌避の事由には当たらない。 第1 事案の概要:申立人が特定の裁判官(深田源次裁判官)に対し、憲法32条違反(裁判を受ける権利の侵害)を理由として、不公平な裁判をするおそれがあるとして忌避を申し立てたが、原…