第一審が法定刑を超えた刑を科した違法がある場合において控訴または上告審が職権調査をなさず、右違法を看過しても、法令に違反したものということはできない。
決定刑を超えた刑を科した第一審判決の違法を看過した控訴または上告審判決と非常上告理由
刑訴法457条,刑訴法458条,刑訴法392条,刑訴法411条
判旨
裁判所は、控訴趣意書または上告趣意書に記載のない事項について職権調査を行うことができるが、これを義務づけるものではない。たとえ第一審が法定刑を超える刑を科した場合であっても、上訴審がこれを見過ごしたことをもって直ちに審判法令違反とすることはできない。
問題の所在(論点)
控訴審(刑訴法392条2項)および上告審(同411条)において、趣意書に記載のない事項(特に法定刑逸脱のような重大な違反)について、裁判所に職権調査の義務があるか。
規範
刑法訴訟法392条2項および411条の規定は、裁判所が職権として調査することができる「権限」を定めたものに過ぎず、控訴または上告の趣意書に包含されない事項について職務として調査しなければならないという「義務」を定めたものとは解されない。
重要事実
第一審裁判所は、建造物侵入の罪につき、法定刑の最高額である罰金2500円を超える「罰金1万円」を被告人らに科した。被告人らは控訴・上告したが、控訴審および上告審において当該法定刑過剰の事実は指摘されず、いずれも上訴が棄却された。その後、検事総長が、第一審判決が法令に違反し被告人に不利益であること、およびこれを見過ごした二審・三審判決に職権調査義務違反があることを理由として非常上告を申し立てた。
あてはめ
刑事訴訟法上の職権調査規定は、事後審の性格を有する上訴審において、裁判所の裁量的判断により著しい正義に反する事態を是正することを認めたものである。したがって、第一審判決が法定刑を超えた刑を科すという明白な法令違反を犯していた場合であっても、弁護人らがこれを上訴の理由として主張しない限り、裁判所が自らこれを発見し調査すべき職務上の義務までは生じない。ゆえに、これを見過ごして上訴を棄却した控訴審・上告審の手続に法令の違反はない。
結論
非常上告は、第一審判決が法定刑を超えた刑を科した点については正当として同判決を破棄し自判するが、これを見過ごした控訴審・上告審の判決に対する破棄申立ては棄却する。
実務上の射程
裁判所の職権調査は「義務」ではなく「裁量(権限)」であるという確立した判例法理。答案上は、上訴審において主張されていない事由を裁判所が取り上げなかったことの適法性を論じる際の根拠となる。ただし、実務上は「著しい正義に反する」場合には職権発動が期待されるため、義務ではないが権限行使が可能であるという文脈で用いる。
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