公判審理前に、これと必要的共犯の関係にある他の被告事件の証人として被告人を尋問し、被告事件の内容に関し、予め智識を有していたからといつて、その裁判官のした審理判決が憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」でないということはできない。
他の被告事件の公判審理により被告事件の内容を予め知つていた裁判官の裁判と憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」
憲法37条1項,刑訴法256条6項,刑訴法296条,刑訴法20条
判旨
裁判官が公判開始前に被告人を別件の証人として尋問し、本件の訴因に関する知識を事前に得ていたとしても、直ちに予断排除原則(刑訴法256条6項等)に反するものではなく、憲法37条1項にいう「公平な裁判所」による裁判を否定するものではない。
問題の所在(論点)
裁判官が起訴状一本主義(刑訴法256条6項)等の趣旨に反して公判前に事件の内容を知った場合、それが直ちに「公平な裁判所」(憲法37条1項)に反する違法な裁判となるか。
規範
裁判官が事件について事前に知識を有していたとしても、その一事をもって直ちに予断排除原則(刑訴法256条6項、296条1項)や除斥事由(同20条6号、7号)の趣旨に反するものとは解されない。また、そのような裁判官による審理であっても、憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」による裁判としての適格性を失うものではない。
重要事実
被告人が公職選挙法違反の罪に問われた事件において、第一審裁判官が、本件の第一回公判期日の前に、別件の被告人に対する公職選挙法違反事件の証人として本件被告人を尋問した。その際の尋問事項には、本件の訴因第一に関する内容が含まれていた。被告人側は、裁判官が公判前に本件の内容について知識を得たことが予断排除原則や公平な裁判所の保障に反すると主張して上告した。
あてはめ
本件では、第一審裁判官が公判開始前に被告人を別件の証人として尋問し、本件訴因に関する事実関係を把握していたことは認められる。しかし、起訴状一本主義の趣旨は裁判官に予断を生じさせないことにあるが、別件の証人尋問等を通じて得られた知識が直ちに不当な偏見や予断に繋がるとは限らない。本件の裁判官が事前に事件の知識を有していたという一事をもって、直ちに刑訴法の諸規定の趣旨に相容れないものとはいえず、公平な裁判所による審理が妨げられたとまでは認められない。
結論
裁判官が事前に事件の知識を有していたとしても、直ちに「公平な裁判所」の裁判に反するものではなく、本件の上告は理由がない。
実務上の射程
予断排除原則や公平な裁判所の文脈で、裁判官が職務外または別個の職務権限行使を通じて事実上の知識を得た場合の限界を示す判例である。裁判官が事前に事件に触れた事実のみをもって直ちに違憲・違法とはならないとする「緩やかな基準」を確認する際に有用である。
事件番号: 昭和31(あ)2178 / 裁判年月日: 昭和31年11月27日 / 結論: 棄却
被告人の事件と相関連する事件で別に起訴され、後に被告人の事件と併合審理された相被告人の第一回公判が、被告人の公判より前に開廷された結果、同一の裁判官が相被告人の第一回公判で、後に被告人の審理において提出された証拠を取り調べたからといつて、被告人に憲法第三七条第一項によつて保障された「公平な裁判所の裁判」を受ける権利が侵…