一 終戦後広島県a町等に散在した未転用未整理の国有旧軍用物資の集荷を同県から委託された者が、既に他に転用払下済の旧軍用物資を未転用未整理のものと誤信して集荷占有中、擅にこれを処分して横領した所為は、刑法第二五二条第一項の罪に当り、誤つて占有した物件の横領として刑法第二五四条により処断すべきものではない。 二 被告人等が他人の委託により占有するケーブルを、擅に、その被覆ゴムの部分と蘂線とを剥離して売却処分する意図の下に、人夫等をしてこれを二、三〇米宛の長さに切断させ、その被覆ゴムを剥離した上、その後これを数回にわたり他の分割売却した本件においては、右切断被覆剥離の作業を終えた段階で横領罪が成立するものと認めるべきである。
一 刑法第二五二条第一項の横領罪に当る一事例 二 横領罪既遂時期についての一事例
刑法252条1項,刑法254条,遺失物法12条
判旨
本来は委託関係に基づかない物件であっても、公的機関等から特定の事務依嘱を受けてその占有を取得した以上、当該占有は委託関係に基づくものと解される。したがって、これを不法に領得する行為は、占有離脱物横領罪(刑法254条)ではなく、単純横領罪(同252条)を構成する。
問題の所在(論点)
集荷依嘱という公法的事務に基づき、誤信によって他人の物件の占有を取得した場合、その占有は単純横領罪(252条)の「占有」にあたるか。それとも、占有離脱物横領罪(254条)にいう「誤って占有した」場合にすぎないか。
規範
横領罪における「自己の占有する他人の物」とは、信託的委託関係に基づいて占有する物を指す。この委託関係は、契約等の明示的なものに限られず、事務管理や公法的依嘱など、法律上・事実上、他人の物を保管すべき地位に基づく占有が認められる場合には肯定される。誤信に基づいて占有を開始した場合であっても、一定の依嘱の範囲内で占有を確保した以上、その占有は委託に基づくものといえる。
重要事実
被告人Aは、広島県転用課から「未転用特殊物件」の集荷依嘱を受け、その事務を掌るIらをして本件ケーブルを搬出・占有させた。被告人Bもこれに立ち合い指図した。しかし、当該ケーブルは実際には既に転用払下済であり、第三者のC造船所が委託を受けて保管していたものであった。搬出に際しC造船所側から抗議を受けたが、被告人らは依嘱の範囲内にある物件と誤信して占有を継続し、後にこれを切断・剥離して売却処分する意図で領得行為に及んだ。
あてはめ
被告人らの本件ケーブルの占有は、C造船所の抗議があったものの、広島県転用課による集荷依嘱書に基づき、同県のために公的な事務として行われたものである。被告人らは、本来は依嘱の範囲外であった物件を、依嘱の範囲内にあると誤信して占有を開始しているが、これは依嘱という具体的な原因に基づき、他人の物を保管・管理すべき地位においてなされた占有であるといえる。したがって、これは遺失物や誤配物のように全く委託関係なく占有を得た「誤って占有した」場合(254条)には当たらない。
結論
被告人らの行為は、委託関係に基づく占有を前提とする単純横領罪(刑法252条1項)が成立する。
実務上の射程
事務管理や公的依嘱など、法律上の原因に基づいて占有を開始した場合には、対象物件が客観的に見て依嘱の範囲外であっても、占有者と被害者等の間に社会通念上の信託的関係を肯定し、252条の適用を認めるべきとする射程を有する。答案上は、占有の取得原因が「単なる偶然」か「事務遂行等」かを区別する基準として機能する。
事件番号: 昭和34(あ)599 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
使途の決まつている金銭または有価証券の寄託を受けた場合には、所定の使用に使用されるまで、これらの所有権は所有者に保留され、これを受寄者が所定の使途以外に使用すれば、横領罪を構成する。