一 刑法第二五四條所定の横領罪の成立するがためには、横領行爲の客体たる占有離脱物が他人の所有にかゝるものと認められゝば足りるのであつて、その所有權の歸屬が明かであることを必要とするものではない。そして、被告人の所有に屬しない物については、その物につき所有者のないことが證據上明らかでない限り直に無主物であると速斷すべきものではない。(明治四五年(れ)第一七八號同年三月一九日大審院判決、昭和七年(れ)第一八三四號同八年三月九日大審院判決參照) 二 本件につき原判決の認定したところによると、被告人は原判の松林内に墜落していた軍用飛行機の機体一個分(發動機を除く)を拾得した上他人に賣却して横領したというのであつて、右機体が占有を離れた他人の物であつたこと並びに被告人がこれを他人に賣却して横領したことを明示しているのであるから刑法第二五四條所定の横領罪の判示として十分であり、本件機体の所有權が現に何人に屬するかを判示することは同條の犯罪を認定するにつき必要な事項でない。
一 占有離脱物横領罪の成立要件と客体に對する所有權の歸屬關係 二 占有離脱物横領罪の判示の程度
刑法254條,舊刑訴法360條1項
判旨
占有離脱物横領罪(刑法254条)の成立には、客体が他人の所有に属すると認められれば足り、具体的な所有権の帰属先まで明らかにする必要はない。
問題の所在(論点)
占有離脱物横領罪の成立において、客体の具体的な所有権の帰属先を特定する必要があるか。また、所有者が不明な場合に直ちに無主物と解すべきか。
規範
刑法254条の占有離脱物横領罪が成立するためには、横領行為の客体たる占有離脱物が「他人の所有」に属すると認められれば足り、その所有権の具体的な帰属先が明らかであることまでは要しない。また、被告人の所有に属さない物については、証拠上無主物であることが明らかでない限り、直ちに無主物と速断すべきではない。
重要事実
被告人は、松林内に墜落していた軍用飛行機の機体(発動機を除く)一個分を拾得した。その後、被告人は当該機体を他人に売却した。原審は、この機体が米国軍用飛行機の機体であったことを認定した上で、被告人につき占有離脱物横領罪の成立を認めた。これに対し、被告人側は所有権の帰属が不明であることや無主物であることを理由に上告した。
あてはめ
本件機体は松林内に墜落した軍用飛行機のものであり、被告人以外の他人の所有に属していたことは明らかである。原判決が本件機体を米国軍用飛行機であったと認定している以上、それは「他人の物」にあたり、具体的な所有者が現に誰であるかを判示することは犯罪の成立に必要ない。また、被告人の所有物でない以上、証拠上無主物と認められない限りは他人の所有物として扱うべきであり、本件機体を無主物と断定することはできない。
結論
被告人に占有離脱物横領罪が成立するとした原判決は正当である。具体的な所有者の特定は不要であり、上告は棄却される。
実務上の射程
遺失物等の占有離脱物について、真実の所有者が誰であるか厳密に立証することが困難な場合であっても、被告人以外の誰かの所有に属することが客観的に認められる限り、本罪が成立することを示す。公訴事実の特定や認定において、所有者の氏名等の特定が必須ではないという実務上の取り扱いを裏付けるものである。
事件番号: 昭和23(れ)929 / 裁判年月日: 昭和23年12月24日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定したところに從えば、被告人は、判事の米五俵が占有を離れた他人の物であることを認識しながら、不法にこれを領得しようと決意して、自宅の藏の内に匿い込んだというのであるから、これはまさしく刑法第二五四條の横領罪に該當する。假りに所論のように、被告人が右の米の盜品であることを認識していたとしても、不法領得の意思…