一 特別公務員暴行陵虐致死被告事件において、被害者の解剖所見のみを基礎として受傷時と死亡時との時間的間隔を推認し、これにより或る幅をもつた受傷時を推認した上、その推認時間内において被害者と交渉を持つた者のうちから証拠と推理によつて加害者を認定しても差支えなく、理由不備の違法があるとはいえない。 二 証拠と理由不備の違法を理由として破棄差戻された後の第二審が、証拠を追加し同一事実を認定した場合には、上級審の裁判所の裁判における判断と相反する判断をしたことにはならない。
一 理由不備の違法のない事例 二 裁判所法第四条に違反しない事例
刑訴法411条1号,刑訴法317条,裁判所法4条
判旨
刑事裁判における事実認定において、犯行時刻を「午前の取調中か午後の取調中か」といった詳細な点まで確定しなくとも、犯罪事実を特定したものとして適法である。また、特殊な環境下で臨床的所見が得られない場合、解剖所見を基礎に受傷時を推認し加害者を判定する手法は、事実認定の方式として欠けるところはない。
問題の所在(論点)
犯罪事実を認定する際、犯行の具体的な時間(午前の取調か午後の取調か等)を厳密に特定しなければ、事実の確定として不十分となるか。また、臨床的所見がない状況で解剖所見から受傷時を推認する認定手法の適否が問題となった。
規範
犯罪事実の特定(刑事訴訟法256条3項参照)においては、日時、場所、方法をもって可能な限り特定すべきであるが、審理の結果、犯行が一定の幅のある時間内(例:午前または午後の取調中)に行われたことが明らかであれば、そのいずれの時点で暴行が加えられたかまでを個別具体的に確定しなくとも、犯罪事実の認定として必要十分である。
重要事実
被告人は、昭和19年1月21日、留置場に拘禁中の被害者Aの取調において暴行を加えたとして起訴された。原判決は、Aの死亡時刻(1月22日午前5時頃)から解剖所見を基に受傷時刻を「数時間乃至十数時間、長くも24時間以内」と推認。その時間内にAと接触した5名の関係者を検討し、被告人を犯人と認定した。被告人側は、暴行が「午前の取調中」か「午後の取調中」か、あるいは「その両方」かが確定されていないとして事実認定の不備を主張し上告した。
事件番号: 昭和23(れ)1738 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 破棄差戻
一定の時に被害者に脳出血による何らかの身体的症状の生じたことを前提として被害者の受傷と死亡との時間的間隔を判定した場合に、右身体的症状を生じたことを認定するための証拠が明らかにその証拠の趣旨と矛盾し、かつ他にこれを認定するにたる証拠のない判決には理由不備の違法がある。
あてはめ
本件では、被告人が昭和19年1月21日午前10時頃から11時頃まで、および同日午後1時過ぎ頃から4時頃まで被害者を取り調べていた事実が認められる。この取調時間内に暴行が加えられたことが認定されている以上、それが午前の回か午後の回か、あるいは双方であるかを特定しなくとも、被告人の防御に支障はなく、犯罪事実の確定として必要かつ十分といえる。また、拘禁中という特殊な環境で臨床的所見が得られない以上、解剖所見から受傷時刻を推認し、その範囲内で接触した者から犯人を特定する手法は合理的であり、論理則・経験則に反しない。
結論
暴行が午前の取調中に加えられたか、午後の取調中に加えられたか、またはその両方であるかまでを確定しなくとも、本件犯罪事実は確定されたものと解すべきである。上告棄却。
実務上の射程
訴因の特定や事実認定における「日時の特定」の程度に関する指針となる。犯人の同一性が識別でき、防御の範囲を画定できる程度に特定されていれば足り、証拠上の限界から生じる合理的な幅のある認定は許容されるという実務上の規範を示している。
事件番号: 昭和28(あ)4724 / 裁判年月日: 昭和31年2月10日 / 結論: 棄却
一 特別公務員暴行陵虐の罪について、被告人の所為が、証拠品の任意提出を求める職務執行にあたり行われたという審判に付する決定事実および一審判決の事実認定を、控訴審において緊急逮捕の職務執行にあたり行われたと認定することは、それが証拠に即する限り違法ではない。 二 (裁判官池田克の補足意見) 特別公務員暴行陵虐被告事件の一…