一定の時に被害者に脳出血による何らかの身体的症状の生じたことを前提として被害者の受傷と死亡との時間的間隔を判定した場合に、右身体的症状を生じたことを認定するための証拠が明らかにその証拠の趣旨と矛盾し、かつ他にこれを認定するにたる証拠のない判決には理由不備の違法がある。
判決に理由不備の違法がある一事例
旧刑訴法360条1項,旧刑訴法410条19号,刑法195条,刑法205条
判旨
天災事変等により起訴状が滅失した異常な場合には、起訴状以外の確実な資料により公訴提起の適式性を認めることができる。また、鑑定結果を採用するに際し、前提事実の認定に証拠上の根拠がなく、かつ反対の趣旨の証拠が存在する場合には、事実誤認の違法を免れない。
問題の所在(論点)
1. 起訴状が滅失している場合に、他の資料に基づき公訴提起の有効性を認めることができるか。 2. 専門的な鑑定に基づき受傷時間を認定する際、鑑定の前提となる具体的な症状の有無を証拠なく認定することは許されるか。
規範
1. 起訴状が滅失した等の異常な事態においては、起訴状以外の確実な資料に基づき、起訴手続が適式になされたことを認定できる。 2. 鑑定人の鑑定結果を証拠として事実を認定する際、その鑑定の前提となる事実(受傷後の自覚症状の有無等)については、証拠に基づき合理的に認定されなければならない。証拠に基づかない想像や、証拠の内容と矛盾する前提に基づく事実認定は、採証法則に反する。
重要事実
被告人が特別公務員暴行陵虐致死罪に問われた事案。昭和20年の空襲により本件の起訴状が焼失したが、記録上の判決書謄本や検事の回答書から、被告人および犯罪事実を特定した適法な公訴提起があったことが確認された。第一審・原審は、鑑定結果に基づき、受傷から死亡までの時間を「20〜24時間以内」と推認し、犯行日時を特定して被告人を犯人と認定した。しかし、その前提となった「被害者に就寝前の自覚症状があった」との事実は、証人の供述(異状はなかった旨)と矛盾し、明確な証拠がないものであった。
あてはめ
1. 本件では、判決書謄本や公判調書等の「他の確実な資料」により、昭和19年4月8日に適法な公訴提起があったと認められるため、起訴状欠如による公訴棄却の必要はない。 2. 事実認定について、原判決は「就寝許可の申出」等を自覚症状の発現と評価したが、これは証拠となった巡査らの供述内容(外見上の異状なし)と矛盾しており、単なる「想像」に過ぎない。鑑定自体も科学的限界から推測の域を出ない部分がある中で、反対の趣旨の証拠を排斥する合理的な理由もなく、前提事実を証拠なく認定した点は違法である。
結論
1. 起訴状滅失による公訴棄却は認められない。 2. 原判決は、証拠に基づかない事実認定により犯行日時を特定した違法があるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
刑事訴訟における事実認定、特に鑑定の証拠力の評価と、その前提となる補助事実の認定のあり方を示す。裁判所が専門的知見を援用する際、その前提事実が証拠に基づいているかを厳格に審査すべきとする実務指針となる。
事件番号: 昭和23(れ)1347 / 裁判年月日: 昭和23年12月25日 / 結論: 棄却
被告人又は辯護人は原審において、所論鑑定書の作成者の訊問を請求した事實のないことは、記録上あきらかであるから、原判決が被告人に右鑑定書の作成者を訊問する機會を與えないで、右鑑定書を證據としたことはすこしも違法ではないのである。
事件番号: 昭和29(れ)19 / 裁判年月日: 昭和30年12月16日 / 結論: 棄却
一 特別公務員暴行陵虐致死被告事件において、被害者の解剖所見のみを基礎として受傷時と死亡時との時間的間隔を推認し、これにより或る幅をもつた受傷時を推認した上、その推認時間内において被害者と交渉を持つた者のうちから証拠と推理によつて加害者を認定しても差支えなく、理由不備の違法があるとはいえない。 二 証拠と理由不備の違法…