第一審において汽車顛覆未遂被告事件において精神分裂症と鑑定され、心神耗弱と認定されたからといつて、その控訴取下の訴訟能力のない者の無効な行為であるということはできない。
責任能力と訴訟能力との関係
刑法39条,刑訴法第3章,刑訴法502条
判旨
刑法上の責任能力と刑事訴訟法上の訴訟能力は概念上区別されるべきであり、行為時に責任無能力であったとしても、直ちに訴訟行為の意義を理解し自己の権利を守る訴訟能力を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
被告人が刑法上の責任無能力の状態にある場合に、当然に刑事訴訟法上の訴訟無能力者として、控訴の取下げ等の訴訟行為が無効となるか。
規範
訴訟能力とは、一定の訴訟行為をなすに当たり、その行為の意義を理解し、自己の権利を守る能力を指す。これは、犯行当時において行為の違法性を意識し、またはこれに従って行為する能力である刑法上の責任能力とは必ずしも一致するものではない。
重要事実
汽車転覆未遂被告事件につき控訴中であった既決囚Aは、控訴の取下げを行った。しかし、Aには当該事件において責任無能力者であった旨の鑑定が存在していた。そのため、Aによる控訴取下げは精神喪失者の無効な行為であり、刑の執行は違法であるとして執行異議が申し立てられた。
事件番号: 昭和36(し)36 / 裁判年月日: 昭和36年8月28日 / 結論: 棄却
一 検察官が裁判の執行指揮その他の処分をする以前になされた裁判の執行に関する異議の申立は不適法である。 二 裁判の執行に関する異議において、裁判の内容そのものの不当を主張し、あるいは現行刑罰制度ないし行刑制度を非難することは許されない。
あてはめ
本件において、Aが汽車転覆未遂事件の犯行時に責任無能力者であった旨の鑑定が存在することは認められる。しかし、責任能力と訴訟能力は別個の概念であり、責任無能力の鑑定があることのみをもって、直ちに訴訟行為の意義を理解し自己の権利を守る能力を欠いていたとは断定できない。本件記録に照らしても、Aに訴訟能力を認めた原審の判断を誤りとする理由は認められない。
結論
被告人が責任無能力者であっても、直ちに訴訟無能力者とはいえない。したがって、本件控訴の取下げは有効であり、これに基づく刑の執行も適法である。
実務上の射程
訴訟能力の有無を判断する際の定義として重要である。実務上、被告人の精神状態が問題となる場面(公判停止の要否や訴訟行為の有効性)において、責任能力の有無に関する立証とは別に、当該訴訟行為の時点における「行為の意義の理解」と「防御能力」という観点から個別具体的に訴訟能力を検討すべきことを示唆している。
事件番号: 平成6(し)173 / 裁判年月日: 平成7年6月28日 / 結論: その他
死刑判決の言渡しを受けた被告人が、その判決に不服があるのに、死刑判決の衝撃及び公判審理の重圧に伴う精神的苦痛によって精神障害を生じ、その影響下において、苦痛から逃れることを目的として控訴を取り下げたなどの判示の事実関係の下においては、被告人の控訴取下げは、自己の権利を守る能力を著しく制限されていたものであって、無効であ…
事件番号: 昭和31(し)29 / 裁判年月日: 昭和31年7月4日 / 結論: 棄却
一 刑訴第三六二条にいわゆる「責に帰することができない事由」とは、上訴不能の事由が上訴権者またはその代人の故意または過失にもとづかないことをいうものである。 二 被告人が刑訴第三八六条第一号の規定による控訴棄却決定の送達を受けた当時病床にあり、医師より絶対安静を命ぜられていたために異議の申立をすることができなかつたとい…
事件番号: 昭和31(し)49 / 裁判年月日: 昭和32年6月12日 / 結論: 棄却
拘置所長あてに送達された起訴状の謄本が、誤つて同姓同名の他の在監者に交付され、被告人がその交付を受けなかつた場合には、起訴状の謄本の送達がなかつた場合と同様に、公訴の提起はさかのぼつてその効力を失う。
事件番号: 昭和43(し)40 / 裁判年月日: 昭和43年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈保証金の没取決定において、決定前に告知、弁解、防御の機会が与えられていなくても、事後に抗告による不服申立ての機会が保障されている限り、憲法31条および29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の保釈保証金について没取決定がなされた。これに対し、被告人側は、決定に先立ってあらかじめ告知、弁解…