拘置所長あてに送達された起訴状の謄本が、誤つて同姓同名の他の在監者に交付され、被告人がその交付を受けなかつた場合には、起訴状の謄本の送達がなかつた場合と同様に、公訴の提起はさかのぼつてその効力を失う。
拘置所長あてに送達された起訴状の謄本が誤つて同姓同名の他の在監者に交付された場合と公訴提起の効力
刑訴法54条,刑訴法271条,民訴法168条,監獄法48条
判旨
在監者に対する起訴状謄本の送達が、監獄の長への送達は完了したものの、係官の過誤により被告人に交付されず、被告人がその内容を知る機会を全く与えられなかった場合、起訴状謄本の送達がなかった場合と同様に公訴提起の効力は失われる。
問題の所在(論点)
在監者に対する送達として監獄の長への交付(刑訴法54条、民訴法168条[当時])が適法に完了している場合であっても、被告人本人に謄本が届かず防御権が侵害されたときに、刑訴法271条2項により公訴提起の効力が失われるか。
規範
起訴状謄本の送達は、被告人に起訴状の内容を了知させ防御準備を尽くさせるために行われるものであり、その未了に公訴提起失効の制裁(刑訴法271条2項)が課されているのは被告人の防御権を保障する趣旨にある。したがって、手続上の送達がなされていても、被告人の責に帰すべき事由なく内容を知る機会が全く与えられず、実質的に防御準備の機会が奪われたと認められる特殊な事情がある場合には、謄本の送達がなかったものと同視し、公訴提起は遡ってその効力を失う。
重要事実
被告人が大阪拘置所に在監中、起訴状謄本が執行吏代理により同拘置所長宛(代理者受領)で送達された。しかし、拘置所係官が誤って同姓同名の別の在監者に謄本を交付してしまい、本件被告人には全く交付されなかった。その結果、被告人は公訴提起から2か月以上経過してもその内容を知ることができず、防御の準備を整えることができない状態で公判期日を迎えることとなった。
事件番号: 昭和32(し)29 / 裁判年月日: 昭和32年7月30日 / 結論: 棄却
第一審の有罪判決に対し被告人弁護人から適式の控訴申立書の提出がなく、ただ控訴申立期間内に控訴審における弁護人選任届が裁判所に提出されただけでは、控訴申立があつたものということができない。
あてはめ
本件では、拘置所長代理者への書類到達により形式的な送達手続は完了している。しかし、係官の過誤により同姓同名の他者に交付されたことは、被告人の責に帰すべき事由ではない。被告人が起訴状の内容を了知し防御準備を整える機会が全く与えられなかったという事実は、被告人の防御権保障を目的とする謄本送達制度の趣旨に著しく反する。このような特殊な状況は、実質的にみて「起訴状の謄本の送達がなかった場合」と同視すべき重大な瑕疵といえる。
結論
本件の公訴提起は、被告人に防御準備の機会が与えられなかったため、遡ってその効力を失う。原決定の結論は正当であり、抗告は棄却される。
実務上の射程
送達の有効性(形式的適法性)と、防御権保障の観点からの救済(実質的有効性)を切り離して考える際に有用。在監者送達において監獄側のミスで本人に届かなかった場合に、救済を認める法理として引用できる。
事件番号: 昭和31(し)12 / 裁判年月日: 昭和31年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法施行前に公訴が提起された事件(いわゆる旧法事件)に対する不服申立てについては、刑訴施行法2条に基づき、現行法ではなく旧刑事訴訟法及び刑事訴訟応急措置法が適用される。 第1 事案の概要:業務上横領等被告事件について、新刑事訴訟法の施行日である昭和24年1月1日より前に公訴が提起された。この…
事件番号: 昭和32(す)390 / 裁判年月日: 昭和32年5月29日 / 結論: 棄却
上告棄却決定の謄本が、本人と弁護人との双方に日を異にし本人に先に送達された場合における異議申立の期間は、本人に送達された日から起算すべきである。
事件番号: 昭和43(し)71 / 裁判年月日: 昭和43年10月31日 / 結論: 棄却
在監者の上訴申立に関する刑訴法第三六六条第一項は、いわゆる審判請求事件についてされた抗告棄却の決定に対し、右請求をした在監者が特別抗告の申立書を差し出す場合には準用ないし類推適用されないものと解すべきである。
事件番号: 昭和37(し)50 / 裁判年月日: 昭和38年10月31日 / 結論: その他
一 被告人が公判期日に出頭しなければ、判決の宣告ができない事件につき、被告人不出頭のまま判決の宣告をした瑕疵があつても、上訴提起期間は判決宣告の日から進行する。 二 右の場合において、控訴申立書と題する書面に、被告人が判決宣告の翌日判決通知書を受けた旨並びに右判決に不服を申し立てるについては上訴権回復の請求に関する刑訴…