検察官から証拠調の請求のあつた供述調書につき、被告人側から異議の申立があつたに拘らず、これを証拠に採用するとした決定の如き訴訟手続に関し判決前にした決定は、刑訴第四三三条第一項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」にあたらない。
証拠決定と刑訴第四三三条第一項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」
刑訴法420条1項,刑訴法433条1項,刑訴法309条1項,刑訴法309条3項,刑訴規則206条
判旨
裁判所の証拠採用決定などの訴訟手続に関し判決前にした決定は、終局判決に対する上訴においてその当否を争い得るため、特別抗告の対象となる「この法律により不服を申し立てることができない決定」(刑訴法433条1項)には当たらない。
問題の所在(論点)
裁判所が行った証拠採用決定のような「訴訟手続に関し判決前にした決定」に対し、刑訴法433条1項に基づく特別抗告を行うことができるか。当該決定が同条にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」にあたるかが問題となる。
規範
刑訴法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」とは、その決定に対して即時抗告等の独立した不服申立てが認められていないだけでなく、終局判決に対する上訴によってもその当否を争う救済の機会が全く残されていない決定を指す。したがって、判決前の訴訟手続に関する決定であっても、終局判決に対する上訴において、その決定の不当・不法が判決に影響を及ぼすことを理由として救済を求め得るものは、同条の「不服を申し立てることができない決定」には該当せず、特別抗告の対象とはならない。
重要事実
所得税法違反被告事件の公判期日において、検察官が伝聞例外(刑訴法321条1項2号)に該当するとして証人Bの供述調書の証拠調べを請求した。これに対し弁護人は、当該調書は強制誘導により作成され、特信状況も欠くとして異議を申し立てた。裁判所はこの異議を退けて証拠採用決定を行い、証拠調べを終了した。弁護人は、この証拠採用決定に違憲・判例違反があるとして最高裁判所に特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和60(し)74 / 裁判年月日: 昭和60年6月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決前の訴訟手続に関する決定は、刑事訴訟法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には該当せず、同条に基づく特別抗告の対象とはならない。 第1 事案の概要:本件は、裁判所がなした証拠決定(訴訟手続に関し判決前にした決定)に対し、抗告人が憲法37条違反を理由として、最高…
あてはめ
刑事訴訟法420条1項は、訴訟手続に関し判決前にした決定に対する直接の抗告を原則として禁止している。これは、一々独立の不服申立てを許さずとも、その決定の不当が判決に影響を及ぼす限り、終局判決に対する上訴(控訴・上告)において救済を求めれば足りるからである。また、証拠採用決定は当該裁判所により取消しや排除が可能であり、決定段階では判決に影響を及ぼすか否かさえ不確定であって、直ちに不服を申し立てる実益に乏しい。このように、終局判決に対する上訴において当否を争う機会が保障されている以上、本件決定は刑訴法433条1項の対象には含まれないと解される。
結論
本件証拠採用決定は、特別抗告の対象となる決定に当たらない。したがって、本件特別抗告は不適法であり、棄却されるべきである。
実務上の射程
判決前の決定(証拠採用、保釈却下、勾留等を除く訴訟手続)に関する不服申立ての可否を論じる際の基礎となる。実務上、証拠決定等の裁定的判断は中間的なものとして独立の抗告が厳しく制限されており、最終的な有罪・無罪の判断(終局判決)の中で一括して是正を図るという刑事手続の構造を理解する上で重要である。
事件番号: 昭和55(し)133 / 裁判年月日: 昭和55年10月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟手続に関し判決前にした決定は、刑事訴訟法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には当たらない。 第1 事案の概要:本件において、抗告人は原裁判所が訴訟手続に関して判決前に行った決定に対し、刑事訴訟法433条1項に基づく特別抗告を申し立てた。当該決定が同条項にいう…
事件番号: 昭和30(し)45 / 裁判年月日: 昭和30年10月29日 / 結論: 棄却
本件証拠請求却下の決定のように訴訟手続に関し判決前にした決定は、刑訴四三三条一項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」に当らない(昭和二九年(し)第三七号、同年一〇月八日第三小法廷決定、集第八巻一〇号一五八八頁)。
事件番号: 昭和47(し)87 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴訟手続に関し判決前にした決定は、刑事訴訟法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には該当しない。したがって、証拠調請求却下決定に対する異議申立を棄却した決定に対して、同条に基づく特別抗告を申し立てることはできない。 第1 事案の概要:被告人側が証拠調べを請求したが…
事件番号: 昭和55(し)77 / 裁判年月日: 昭和55年7月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官手持証拠の開示命令に関する異議申立却下決定のような、訴訟手続に関し判決前にされた決定は、刑訴法433条にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人側が、検察官の手持証拠について開示命令を発するよう求めたところ、裁判所がこれを発しない旨の…