保釈を許す決定に対する抗告事件において、抗告裁判所は、原決定が違法であるかどうかにとどまらず、それが不当であるかどうかをも審査し得るものである。
保釈決定に対する抗告事件と抗告裁判所の審査範囲
刑訴法419条,刑訴法420条,刑訴法426条,刑訴法88条1項,刑訴法91条1項
判旨
保釈を許す決定に対する抗告事件において、抗告裁判所は、原決定の違法性のみならず、その不当性についても審査することができる。かかる審査は裁判官の良心と独立を侵害するものではなく、憲法76条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
保釈決定に対する抗告事件において、抗告裁判所が決定の「不当」を理由として原決定を取り消すことができるか。また、かかる審査が裁判官の独立(憲法76条3項)を侵害しないか。
規範
保釈決定に対する抗告の審理において、抗告裁判所は原決定の違法性だけでなく、裁量判断の当不当についても審査権限を有する。裁判所の裁量的判断を上位の裁判所が審査・変更することは、司法の適正な運用を担保する制度的枠組みであり、下級審裁判官の独立を侵すものではない。
重要事実
保釈を認める決定がなされたことに対し、検察官が抗告を申し立てた事案。抗告裁判所が原決定を「不当」として取り消したことに対し、弁護人は「抗告裁判所が決定の不当性を審査することは、原決定をした裁判所の良心と独立を侵すものであり、憲法76条3項に違反する」と主張して特別抗告を行った。
事件番号: 昭和29(し)1 / 裁判年月日: 昭和29年1月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留が不当に長いか否かは、事件の性質、審理の進行状況等、種々の事情を総合的に考慮して判断されるべきである。原審が保釈許可決定を取り消した判断に憲法違反の事由は認められない。 第1 事案の概要:第一審(名古屋地裁)が被告人らに対して保釈許可決定をしたが、原審がこれを失当として取り消した。これに対し、…
あてはめ
保釈許容決定に対する抗告制度は、身体拘束の要否に関する判断の慎重を期すために設けられたものである。抗告裁判所が原決定の違法性にとどまらず、事実認定や裁量判断の妥当性(不当性)を審査することは、法制度上当然に予定されている。したがって、審査の結果として不当と判断し原決定を覆したとしても、それは法的適正を確保するための職務行使にすぎず、原審裁判官の良心や独立を侵害するものとは評価されない。
結論
抗告裁判所は、保釈を許す決定が不当であるかどうかを審査しうる。本件審査は合憲であり、特別抗告は棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法上の抗告全般において、抗告裁判所が広範な審査権(当不当の審査権)を有することを確認した射程の広い判例。司法試験の刑事訴訟法・憲法の論述において、上訴制度・抗告制度の性質や裁判官の独立との関係が問われた際の基礎知識として有用である。
事件番号: 昭和44(し)38 / 裁判年月日: 昭和44年7月14日 / 結論: 棄却
被告人が甲、乙、丙の三個の公訴事実について起訴され、そのうち甲事実のみについて勾留状が発せられている場合において、裁量保釈の許否を審査するにあたり、甲事実の事案の内容や性質、被告人の経歴、行状、性格等の事情を考察するための一資料として乙、丙各事実を考慮することはさしつかえない。
事件番号: 昭和43(し)40 / 裁判年月日: 昭和43年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈保証金の没取決定において、決定前に告知、弁解、防御の機会が与えられていなくても、事後に抗告による不服申立ての機会が保障されている限り、憲法31条および29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の保釈保証金について没取決定がなされた。これに対し、被告人側は、決定に先立ってあらかじめ告知、弁解…
事件番号: 昭和28(し)73 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】抗告裁判所が保釈の当否について第一審裁判所と異なる判断を示したとしても、それは第一審裁判所の心証形成に不当な干渉を及ぼすものではない。 第1 事案の概要:第一審裁判所が保釈を認める決定(または認めない決定)を下したことに対し、抗告がなされた。抗告裁判所は、第一審裁判所の判断を覆す決定を行ったところ…
事件番号: 平成22(し)288 / 裁判年月日: 平成22年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の適否について、公訴事実とされた犯罪事実の性質等に照らし不適切な点があり得るとしても、著しく正義に反すると認められない限りは原決定を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人が勾留されている公訴事実について、原決定が裁量により保釈を許可したところ、検察官側が犯罪事実の性質等を理由に不服を…