被告人が甲、乙、丙の三個の公訴事実について起訴され、そのうち甲事実のみについて勾留状が発せられている場合において、裁量保釈の許否を審査するにあたり、甲事実の事案の内容や性質、被告人の経歴、行状、性格等の事情を考察するための一資料として乙、丙各事実を考慮することはさしつかえない。
勾留状の発せられていない公訴事実を裁量保釈の審査の一資料とすることの可否
刑訴法90条
判旨
裁判所が裁量保釈(刑訴法90条)の適否を判断するにあたり、勾留状の発せられていない他の公訴事実を判断の資料として考慮することは許される。
問題の所在(論点)
裁量保釈(刑訴法90条)の判断において、当該勾留の理由となっていない他の公訴事実を考慮することの可否が、同条の「適当」性の判断枠組みとの関係で問題となる。
規範
刑訴法90条による裁量保釈の適否を審査するにあたっては、勾留状の発せられた公訴事実の内容や性質、被告人の経歴、行状、性格等の事情を総合的に考察する必要がある。そのための資料として、勾留状の発せられていない他の公訴事実を考慮することも妨げられない。
重要事実
被告人は、甲、乙、丙の3つの公訴事実で起訴されていたが、勾留状は甲事実についてのみ発せられていた。裁判所は、甲事実につき刑訴法89条3号に該当するとして権利保釈を認めず、さらに裁量保釈の適否を検討する際、勾留状の発せられていない乙および丙の各事実をも資料として考慮し、保釈を不適当と判断した。これに対し弁護人が、勾留のない事実を考慮することは違法であるとして抗告した事案である。
事件番号: 昭和44(し)64 / 裁判年月日: 昭和44年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈請求却下の裁判およびこれを維持した決定に対し、憲法13条違反等の主張があったとしても、それが裁判の結果に影響を及ぼさない場合や、実質的に単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、特別抗告の理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人側が保釈を請求したが却下され、その却下裁判を維持した原決定に対し…
あてはめ
裁量保釈は、権利保釈が除外される場合であっても、諸般の事情を考慮して身柄拘束の継続が不当とされる場合に認められるものである。本件被告人には前科8犯の元暴力団員という経歴があり、性格や行状を判断する上で、起訴されている他の乙・丙事実の内容を考慮することは、被告人の「適当」性を判断するための合理的な資料となり得る。したがって、勾留状の対象外である事実を考慮に含めても、適正な手続を定めた憲法や刑訴法に違反するものではないといえる。
結論
裁量保釈の適否判断において、勾留状の発せられていない他の公訴事実を考慮することは適法であり、保釈請求を却下した原決定に憲法違反や判例違反はない。
実務上の射程
本判決は、裁量保釈における判断材料の広汎性を認めたものである。答案上は、裁量保釈の要件検討において、被告人の「性格」「経歴」等の具体的事実を挙げる際、別罪の存在や余罪の嫌疑をどこまで考慮できるかの論理的根拠(資料としての許容性)として活用できる。ただし、勾留の不当な引き延ばしのために用いることはできない点には留意が必要である。
事件番号: 昭和45(し)90 / 裁判年月日: 昭和45年11月26日 / 結論: 棄却
所論引用の名古屋高裁昭和三〇年一月一三日決定(高等裁判所刑事裁判特報二巻一・二・三合併号三頁)および福岡高等裁判所同年七月一二日決定(高等裁判所刑事判例集八巻六号七六九頁)は、いずれも併合罪の関係にある数個の起訴事実のうち一部の事実についてのみ勾留状が発せられている場合において、いわゆる権利保釈事由または保釈取消事由の…
事件番号: 昭和29(し)32 / 裁判年月日: 昭和29年7月7日 / 結論: 棄却
保釈を許す決定に対する抗告事件において、抗告裁判所は、原決定が違法であるかどうかにとどまらず、それが不当であるかどうかをも審査し得るものである。
事件番号: 昭和24新(つ)7 / 裁判年月日: 昭和25年2月2日 / 結論: 棄却
本件被告人Aは、昭和二四年五月一七横濱地裁横須賀支部において、懲役一年に處する旨の判決の宣告を受けたものである。そして、禁錮以上の刑に處する判決の宣告があつた後は、刑訴法第三四四條により、保釋の請求があつても、必ずこれを許さなければならないということはなく、裁判所が適當と認めた場合に限り、職權を以て保釋を許せば足りるも…
事件番号: 昭和28(し)73 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】抗告裁判所が保釈の当否について第一審裁判所と異なる判断を示したとしても、それは第一審裁判所の心証形成に不当な干渉を及ぼすものではない。 第1 事案の概要:第一審裁判所が保釈を認める決定(または認めない決定)を下したことに対し、抗告がなされた。抗告裁判所は、第一審裁判所の判断を覆す決定を行ったところ…