勾留状記載の罪名と起訴状記載の罪名とが異つていても、両者に記載されている犯罪事実に同一性があると認められる以上、勾留は違法でない。
起訴状記載の罪名と勾留状記載の罪名とが異なる場合と勾留の効力
刑訴法64条,刑訴法256条,憲法34条
判旨
勾留状記載の罪名と起訴状記載の罪名が異なる場合であっても、両者の犯罪事実に同一性が認められる限り、当該勾留状は違法ではない。また、仮に勾留手続に違法があったとしても、その違法は抗告等により争われるべきものであり、判決そのものに影響を及ぼさない限り上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
勾留状に記載された罪名と起訴状・判決で認定された罪名が異なる場合、当該勾留は違法となるか。また、仮に勾留が違法である場合、それが判決に対する上告理由となり得るか。
規範
勾留の適法性は、勾留状に記載された犯罪事実と、後の起訴状や判決で認定された犯罪事実との間に「同一性」があるか否かによって判断される。また、刑事手続における個別の強制処分(勾留等)の違法は、原則として独立した不服申立手続(抗告等)によって解消されるべきであり、その違法が判決に直接影響を及ぼさない限り、上告理由(刑訴法405条)として主張することはできない。
重要事実
被告人に対し、勾留状では「脅迫罪」の罪名で勾留がなされた。しかし、その後の起訴状では「公務執行妨害罪」の罪名で起訴され、第一審判決においても刑法95条1項、2項が適用され、原判決もこれを是認した。弁護人は、勾留時の罪名と起訴・判決時の罪名が異なることを捉え、勾留が違憲・違法であり上告理由に当たると主張した。
あてはめ
本件において、勾留状記載の「脅迫」と起訴状記載の「公務執行妨害」は、罪名こそ異なるものの、その基礎となる犯罪事実には同一性があると認められる。したがって、勾留状の記載に端を発する手続きの違法は存在しない。また、仮に勾留に何らかの瑕疵があったとしても、被告人は抗告等の特別の手続によって救済を求めるべきであり、本件における勾留の成否が直ちに判決の結果に影響を及ぼすとは認められないため、上告の適法な理由とはならない。
結論
勾留状と起訴状で事実の同一性が認められる以上、勾留は違法ではなく、また勾留の違法自体は判決に影響を及ぼさないため、上告を棄却する。
実務上の射程
犯罪事実の同一性の範囲内であれば罪名の変更は勾留の効力に影響しない(勾留の効力範囲)。また、公判手続と強制処分等の付随的手続の違法を峻別する実務上の原則(いわゆる違法の承継の否定)を示す。答案では、身柄拘束の違法を理由に公訴棄却や無罪を主張する設問に対し、本判例を根拠に「判決に影響を及ぼさない」として否定する論法として活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)1106 / 裁判年月日: 昭和31年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務執行妨害罪の成立には公務の適法性が求められるところ、執行の根拠となる裁判が一部矛盾を含んでいても、なお執行可能な部分が存在し、その範囲内で行われる公務を妨害した場合には同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人らは、福岡地方裁判所飯塚支部の仮処分決定(昭和26年(ヨ)第2号および第27号)に基…