控訴審において公判期日を指定告知した後、弁護人から他の裁判所の公判があるため差支がある旨の証明書を添えてその公判期日の変更申請があつても、右期日は裁判所において弁護人の再三の変更申請を容れて指定したものであり、当該期日には国選弁護人により右私選弁護人提出の控訴趣意書に基き弁論し、その内容も量刑不当および多数の犯罪事実中の一部認定事実の誤記を指して事実誤認を主張するものにすぎないようなものである場合には、右変更申請を却下しても弁護権を不法に制限したものということはできない。
弁護権の不法制限とならない一事例
刑訴法276条1項,刑訴規則179条ノ4
判旨
弁護人が他件の公判等により公判期日に出頭できない場合でも、裁判所が期日変更申請を却下し、国選弁護人を付して審理を終結させることは、弁護人の主張内容やこれまでの手続経過に照らして正当な理由がある限り、被告人の防御権を不当に侵害するものではなく、違法ではない。
問題の所在(論点)
私選弁護人が他件の公判等の支障を理由に期日変更を申し立てた際、裁判所がこれを却下して国選弁護人により審理を進行させる措置が、被告人の弁護を受ける権利を侵害し、刑事訴訟法上の手続違反(違憲・違法)に該当するか。
規範
裁判所が公判期日を決定・維持する権限(訴訟指揮権)を行使するにあたり、私選弁護人の不出頭を理由とする期日変更申請を却下することが許されるかは、手続の遅延回避という要請と被告人の弁護人依頼権(憲法37条3項)の調和の観点から判断される。具体的には、①それまでの期日変更の経緯、②変更申請の時期および理由の具体性、③国選弁護人の選任による防御権確保の有無、④事案の性質や争点の複雑性(新たな事実証拠の取調の必要性等)を総合考慮して決すべきである。
重要事実
被告人Cの私選弁護人は、第2回公判期日に指定された次回期日(2月17日)について、他件の裁判と重なるとして期日変更を申請した。しかし、裁判所は、既に第1回・第2回の期日変更を弁護人の申請に基づき認めていたこと、第2回期日指定時に弁護人から特段の支障の申出がなかったこと等を踏まえ、変更申請を却下。国選弁護人を付して第3回公判を実施し、私選弁護人が提出済みの控訴趣意書に基づき弁論を行わせた。控訴趣意書の内容は、主に量刑不当と単純な事実誤認を主張するものであった。
あてはめ
本件では、第一に、原裁判所は既に複数回にわたり弁護人の申請を容れて期日を変更しており、十分な配慮を行ってきたといえる。第二に、次回期日指定時に弁護人から支障の申告がなく、申請のタイミングに合理性を欠く。第三に、私選弁護人が作成した控訴趣意書の内容は量刑不当や単純な誤記の指摘に留まり、複雑な立証や新たな証拠調べを要するものではなかった。第四に、実際に国選弁護人が選任され、私選弁護人の主張を基に弁論が尽くされている。したがって、実質的な防御権の侵害は認められず、裁判所の措置は正当な訴訟指揮の範囲内であると評価される。
結論
原審の期日変更申請の却下および国選弁護人による審理進行は正当であり、訴訟法違反等の上告理由は認められない。
実務上の射程
弁護人の差支えによる期日変更権は絶対的なものではなく、訴訟の遅延防止の観点から制限されうることを示した。実務上、期日変更を求める際は、単なる「差支え」の主張だけでなく、当該期日でなければならない理由や、防御上の具体的な不利益を示す必要がある。また、控訴審のように書面審理が中心となる場面では、既に趣意書が提出されていることが裁判所の強気な訴訟指揮を正当化する一因となりやすい。
事件番号: 昭和25(あ)1590 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
記録によれば、原審裁判所が弁護人木原主計の第一回公判期日変更申請を許容しなかつたこと及び、同弁護人がその期日に公判に立会わないことは所論のとおりであるが、国選弁護人により被告人自身選定した右木原弁護人提出の控訴趣意書に基く弁論がなされたこと、その控訴趣意は簡単明白であり特に新たな事実証拠の取調を要する趣旨でもないこと及…
事件番号: 昭和27(あ)384 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意において以前の審級に提出した書面を単に引用する手法は、刑事訴訟法上の適法な上告趣意の提示として認められない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗および食糧管理法違反の罪で起訴され、第一審判決およびそれを是認した原判決において有罪とされた。弁護人は上告趣意書において、第一審で提出した弁論上申の要…