一 犯行の時刻は本件犯罪については罪となるべき事実でもなく、また、法律上刑の加重減免の原由たる事実でもないこと明らかであるから、これを判示しなかつたからといつて、原判決には所論のような審理不尽又は判断遺脱の違法は存しない。 二 蓋し拳銃の操作殊に安全装置をかけようとするときには当然に銃口を空中又は地面に向けてする等事故の発生を未然に防止する義務のあることは拳銃を業務上携帯する者等に課せられている注意義務であること多言を要しないところであるからである。されば、仮りに、所論のように被告人が左手にもつていた捕縄を一時はなち、両手で拳銃の安全装置をすることが被告人の職責上等からできなかつたとしても、被告人に本件拳銃の暴発に因る死傷について業務上の過失がないとはいえない筋合であるといわなければならぬ。
一 犯行の時刻と旧刑訴法第三六〇条 二 拳銃の操作に関する注意義務
旧刑訴法360条,旧刑訴法410条19号,刑法211条
判旨
拳銃を業務上携帯する者には、安全装置を操作する際、銃口を空中や地面に向けるなどして事故を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。この義務を怠り、同僚が前方にいることを認識しながら銃口を前方に向けて操作し、暴発により死傷させた場合は、業務上過失致死傷罪が成立する。
問題の所在(論点)
拳銃を業務上携帯・操作する者に求められる注意義務の内容、及び銃口を前方に向けて安全装置を操作した行為が業務上の過失に該当するか。
規範
業務上過失致死傷罪(刑法211条)における注意義務は、当該業務に従事する者に求められる具体的な危険防止措置の内容によって画定される。拳銃の携帯・操作という高度の危険を伴う業務に従事する者においては、暴発による不測の事態を避けるため、操作時に銃口を安全な方向(空中又は地面)に向ける等の結果回避措置を講じるべき一般的義務がある。
重要事実
被告人は警察官として拳銃を業務上携帯していた。犯人連行中、威嚇発射後に安全装置が完全に掛かっていないことに気づき、歩きながら片手で安全装置を掛け直そうとした。その際、被告人は同僚のA巡査が約1.8メートル(六尺)前方を歩いていることを認識していたにもかかわらず、銃口を前方に向けたまま操作したため、拳銃が暴発した。これにより同僚Bを即死させ、Aに傷害を負わせた。
あてはめ
被告人は安全装置が不完全であるという危険な状態を認識しており、かつ前方に同僚が歩いているという具体的事態も把握していた。このような状況下で拳銃を操作する場合、拳銃の性質上、事故防止のために銃口を空中や地面に向けるべき注意義務があることは明白である。それにもかかわらず、被告人は銃口を前方に向けたまま片手で操作を継続しており、結果回避のための適切な措置を怠ったといえる。仮に職責上両手での操作が困難であったとしても、銃口の向きを制御することは可能であり、過失の成立は妨げられない。
結論
被告人には拳銃操作に関する業務上の注意義務違反が認められ、業務上過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
具体的な危険物の取扱い(本件では拳銃)における結果回避義務の内容を「銃口を安全な方向に向ける」という極めて具体的な動作レベルで示した事例である。警察官の公務遂行中であっても、特段の事情がない限り、武器使用に伴う基本的な安全確保手順の不履行は直ちに業務上の過失を構成するという判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …