原判示の收賄の事實は、檢事はこれを恐喝として起訴していることは所論のとおりである。しかし、檢事が恐喝として起訴した事實と原判示の事實との間には金員の提供者、收受者、收受の日時、場所、金員の額のいずれもが同一であつて、ただ金員の收受者が提供者を恐喝して金員を交付せしめたのか、單に職務に關し提供された金員を收受したのかの點において、おのおのその認定を異にするだけである。されば起訴事實と原判示事實との間には基本たる事實關係を同じくするものと認められるから、原判示事實は起訴事實と同一性を失わないものといわなければならぬ。從つて起訴事實の罪名と罪質とが原判示事實の罪名と罪質とに一致しないからといつて、原判決には審判の請求を受けない事件について判決をしたものということはできない。
恐喝罪として起訴された事實を收賄罪として認定した場合と公訴事實の同一性
刑法197條1項 刑法249條,舊刑訴法291條,舊刑訴法410條18號
判旨
起訴された恐喝の事実と裁判所が認定した収賄の事実について、金員の提供者・収受者・日時・場所・金額が同一であれば、公訴事実の同一性を失わない。したがって、検察官の起訴した事実と異なる罪名であっても、基本的事実関係が同一である限り、裁判所は別罪名で認定することが可能である。
問題の所在(論点)
検察官が「恐喝罪」として起訴した事実に対し、裁判所が「収賄罪」を認定することは、公訴事実の同一性の範囲内として許容されるか。起訴事実と認定事実の罪名・罪質が異なる場合の同一性判断の基準が問題となる。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、基本的事実関係が同一であるか否かによって決せられる。具体的には、犯行の日時、場所、対象、当事者等の客観的要素に共通性があり、単に犯行の態様や法的評価(罪名・罪質)が異なるに過ぎない場合には、公訴事実の同一性が認められる。
重要事実
被告人は、検察官により、ある人物に対して恐喝を行い金員を交付させた事実(恐喝罪)で起訴された。しかし、原判決(二審)は、当該金員の授受について、恐喝によるものではなく職務に関して提供されたものを受け取った事実(収賄罪)として認定した。これに対し、被告人側は、起訴された事実と認定された事実の罪名・罪質が一致しないため、審判の請求を受けていない事件を判決した違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件において、検察官が恐喝として起訴した事実と、原審が認定した収賄の事実は、(1)金員の提供者、(2)金員の収受者、(3)授受の日時、(4)場所、(5)金員の額のいずれもが同一である。両者の違いは、収受者が提供者を「恐喝して交付させた」のか、単に「職務に関し提供されたものとして収受した」のかという、態様および法的評価の点に留まる。このように基本的事実関係が共通している以上、両事実は同一性を失うものではない。
結論
本件認定事実は起訴事実と同一性を有するため、別罪名による認定は適法である。したがって、不告不理の原則には反せず、上告を棄却する。
実務上の射程
公訴事実の同一性の判断において、「基本的事実関係の同一性」を重視した初期の重要判例。実務上、訴因変更の要否や限界を論じる際、単なる法的評価の差異(恐喝か収賄か)は同一性の範囲内であることを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)1845 / 裁判年月日: 昭和28年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪の公訴事実と、予備的に追加された詐欺罪の訴因事実は、その基礎的事実を同じくするものとして、公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)が認められる。 第1 事案の概要:被告人は当初、横領罪の公訴事実で起訴された。その後、差戻後の第一審において、検察官により詐欺罪の訴因が予備的に追加された。第一…
事件番号: 昭和30(あ)3376 / 裁判年月日: 昭和33年5月20日 / 結論: 棄却
一 「被告人はA株式会社代表取締役として同会社の営業を総理しているものであるが、昭和二五年七月一四日頃同会社において被告人保管にかかる同会社資金中より甲が同人所有にかかる同会社株式一万株を被告人に譲渡する代金として金五〇万円を同会社会計課長丙をして勝手に右甲に対し支払わしめて横領した」旨の業務上横領の訴因と、「被告人は…