控訴裁判所が刑訴法第四〇〇條但書によつて直に判決する場合、同法第四〇四條によつて第一審公判に關する規定を準用し事實の取調並びに、證據調及び控訴裁判所において取調べた證據を資料として覆審をなし辯論を繰り返えし被告人又は辯護人をして最終の陳述をなさしめるべきものではない。
控訴裁判所が刑訴法第四〇〇條但書によつて直に判決する場合と辯論の要否
刑訴法400條但書,刑訴法404條,刑訴法292條,刑訴法293條
判旨
控訴審は第一審判決の事後審査の手続であり、刑訴法400条但書に基づき自判する場合でも、第一審の公判規定を準用して覆審を行う必要はない。
問題の所在(論点)
刑訴法400条但書により控訴裁判所が直ちに判決(自判)をする際、同法404条により第一審の公判規定を準用し、改めて証拠調べや被告人の最終陳述を行う等の「覆審」を行う必要があるか。控訴審の構造的性格が問題となる。
規範
現行の刑事訴訟法における控訴審の本質は、第一審手続の覆審ではなく、第一審判決の事実認定および法令適用に対する「事後審査」の手続である。したがって、同法400条但書にいう「控訴裁判所において取り調べた証拠」とは、同法393条により裁判所が調査の必要上特に取り調べた証拠を指すにすぎず、自判にあたって常に第一審の公判規定(同404条)を準用して事実取調べや被告人の最終陳述等の覆審手続を繰り返す必要はない。
重要事実
被告人が窃盗罪に問われた事案において、第一審判決に対し控訴がなされた。控訴審(原審)は、自ら証拠調べを行った上で、刑訴法400条但書を適用して第一審判決を破棄し、自ら判決(自判)を言い渡した。これに対し弁護人は、控訴審が自判する場合には、第一審の公判手続と同様に事実の取調べや被告人による最終陳述といった「覆審」の手続を経なければならないと主張して上告した。
あてはめ
控訴審は、検察官・弁護人が控訴趣意書に基づき弁論する事後審査の場であり、被告人の出頭も原則として不要とされている。この構造に照らせば、400条但書で自判する場合であっても、必ずしも第一審のような全面的な証拠調べのやり直しを要するものではない。本件記録を精査しても、第一審の供述が強要されたものとは認められず、原審が第一審の証拠や控訴審で取り調べた証拠に基づき事実を認定した手続に違法はない。
結論
控訴審は事後審査であるため、自判の際に改めて覆審の手続(第一審の公判規定の準用)を行う必要はない。原判決に訴訟手続の法令違反は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審の構造(事後審査制)を基礎づけるリーディングケース。答案上は、控訴審での証拠調べの制限や、自判の要件を論じる際に「控訴審は事後審査である」という本質的理由付けとして引用する。また、刑訴法400条但書の解釈において、独自の証拠調べが限定的であることを論証する際にも有用である。
事件番号: 昭和25(あ)350 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
控訴審における事実の取調は、第一審判決の当否を判断するに必要な範囲にかぎられる。(旧法における覆審の場合のように、あらたな事実の認定や、刑の量刑を目的としてなさるべきものではない。)