控訴審における事実の取調は、第一審判決の当否を判断するに必要な範囲にかぎられる。(旧法における覆審の場合のように、あらたな事実の認定や、刑の量刑を目的としてなさるべきものではない。)
控訴審における事実の取調の範囲
刑訴法392条,刑訴法393条,刑訴法400条,旧刑訴法401条1項
判旨
刑事訴訟法における控訴審の構造は事後審であり、第一審判決の当不当を審査する性質を有するものである。事実の取調は第一審判決に破棄事由が存在するか否かを審査するために必要な限度で認められるに過ぎず、新証拠の提出機会を制限しても直ちに憲法違反とはならない。
問題の所在(論点)
控訴審において新証拠の提出や事実の取調が制限されることは、被告人の防御権を不当に侵害し憲法に違反するか。また、控訴審の構造をどのように解すべきか。
規範
現行刑事訴訟法における控訴審は、旧法の覆審とは異なり、事後審としての性格を有する。すなわち、第一審の証拠・訴訟記録に基づき、第一審判決の事実認定・量刑の妥当性や法令違反の有無を審査するものである。したがって、刑事訴訟法393条1項に基づく事実の取調は、第一審判決に存する当事者の主張又は職権調査すべき破棄事由の有無を審査するために必要がある場合に限られる。
重要事実
被告人は第一審において勾留中であり十分な証拠収集ができなかったとして、控訴審において新証拠(牛売渡書)の提出や証人尋問を求めた。しかし、控訴裁判所がこれら事実取調の機会を与えずに第一審判決を維持したため、被告人が審理不尽および公正な裁判を受ける権利(憲法32条等)の侵害を主張して上告した事案である。
あてはめ
控訴審は純然たる法律審ではないが、その職権による事実取調は破棄事由の審査に必要な範囲に限定される。本件において、刑事訴訟法は弁護人との交通権や必要的弁護制度を整備し被告人の防御権を保護している。また、訴訟記録上、原審の弁護人が実際に証人取調を請求した事実は認められない。上訴審の権限をいかに定めるかは立法政策の問題であり、第一審の判断を基礎として事後的に審査を行う構造を採ることは、憲法の保障する権利を剥奪するものとはいえない。
結論
控訴審は事後審であり、第一審判決の当不当を審査するために必要な限度を超えて新たな事実認定や量刑のための証拠調を行うべきものではない。したがって、原判決に違憲・違法はない。
実務上の射程
刑事訴訟法上の控訴審が事後審であることを宣言したリーディングケースである。答案上では、控訴審における証拠調請求の採否や、382条の事実誤認の審査基準(第一審判決の合理性)を論ずる際の前提となる「控訴審の構造」の法的根拠として引用する。
事件番号: 昭和26(あ)1418 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
一 刑訴法第三九三条第一項本分が、控訴審における事実取調の必要の有無を裁判所の裁量に委ねたことは、憲法に違反しない。 二 しかし、現行法上控訴審はいわゆる事後審として認められているのであつて控訴審における事実の取調は第一審判決の当否を判断するに必要な範囲にかぎられるのであり、その必要の有無は刑訴三九三条一項但書の場合を…