起訴状には、公訴事實として「被告人は豊橋市a町bc番地において、小麥粉の製粉業を營むものであるが、法定の除外事由がないのに拘らず營利の目的で昭和二四年三月一〇日頃右製粉工場等において、小麥粉約七五四瓩一〇〇瓦をその法廷の統制額を超えて販賣する目的にて所持して居たものであると記載し、適用すべき罰條として物價統制令第一三條ノ二第三五條が表示されているので販賣すべき價格又は統制額を表示していなくても物價統制令第一三條ノ二違反の罪の構成要件にあたる事實は具体的に表示され且適用すべき罰條も示されているので右は被告人に對し物價統制令第一三條ノ二違反の罪について起訴したものであること明らかであつて何等訴因の明示において缺けるところはない。從つて本件公訴提起の手續はその規定に違反したものではなく有効である。そしてもし本件公訴提起の手續が有効であるとすれば所論といえども原判決は憲法第三一條に違反したものと主張する趣旨ではないことその所論自体に徴し明らかであるから本論旨は憲法違反とはいうけれどもその實質は刑訴法第二五六條の問題に過ぎず何等憲法違反の問題ではないので本論旨は刑訴法第四〇五條に規定する事由にあたらないこと明らかである。
物價統制令違反の罪につき公訴事實の記載が具体的でなく訴因の明示を欠くという主張とその主張が實質において憲法違反の主張にあたらない事例
刑訴法256條,刑訴法405條,憲法31條
判旨
起訴状において、犯罪の日時、場所、方法に加え、適用罰条に照らして構成要件に該当する事実が具体的に記載されているのであれば、販売目的の統制額超過所持罪において具体的な販売予定価格等の記載がなくても、訴因は特定されている。刑事訴訟法256条3項の訴因の明示に欠けるところはなく、公訴提起の手続は有効である。
問題の所在(論点)
物価統制令13条の2違反(統制額超過販売目的所持)の公訴事実において、具体的な販売予定価格や統制額の数値を示さずに「法定の統制額を超えて販売する目的」と記載することは、訴因の特定(刑訴法256条3項)として十分か。
規範
訴因の特定(刑事訴訟法256条3項)においては、被告人の防禦の範囲を限定し、裁判所の審判対象を明確にするため、犯罪の構成要件に該当する具体的実体を他の犯罪事実と区別できる程度に記載することを要する。罰条の構成要件に照らし、犯罪を構成する具体的事実が摘示されており、かつ適用すべき罰条が示されているのであれば、細部の数値的記載が欠けていても訴因の明示を欠くものとはいえない。
重要事実
被告人は、製粉業を営む者であるが、法定の除外事由がないにもかかわらず、営利の目的で小麦粉約754kgを法定の統制額を超えて販売する目的で所持したとして、物価統制令違反で起訴された。起訴状には、犯行の日時(昭和24年3月10日頃)、場所(豊橋市内の製粉工場等)、および所持の態様が記載され、適用罰条として物価統制令13条の2、35条が明示されていた。しかし、被告人が具体的にいくらで販売しようとしたのかという販売予定価格や、具体的な統制額の数値自体は記載されていなかった。
あてはめ
本件起訴状には、日時、場所、対象物(小麦粉の数量)が特定されており、かつ「法定の統制額を超えて販売する目的で所持した」という構成要件的要素が明記されている。適用罰条として物価統制令13条の2が示されている以上、同条の構成要件にあたる事実は具体的に表示されているといえる。販売すべき価格や統制額の具体的な数値を記載しなくても、被告人にとってどのような犯罪事実について審判がなされるかは明らかであり、防禦の範囲を限定する機能に欠けるところはない。
結論
本件公訴提起の手続は有効である。訴因の明示において欠けるところはなく、刑訴法256条に違反しない。
実務上の射程
訴因の特定程度の基準を示す初期の判例である。構成要件要素を包括する文言であっても、他の事実と区別可能で防禦の対象が明確であれば、詳細な数値等の記載がなくても特定を肯定する実務上の運用を支える。もっとも、現代の防禦権保障の観点からは、より詳細な態様の特定を求める傾向がある点には留意を要する。
事件番号: 昭和24新(れ)146 / 裁判年月日: 昭和25年4月6日 / 結論: 棄却
第一審及び原審が被告人に適用した所論物價統制令第一三條の二の違反の罪は、その成立に、物價廳告示の價格を超過した價格で物品を取引することを必要とするものではなく、統制價格を超過した價格等で取引する目的で物品を所持することだけで成立するものである。從つて、所論物價廳告示の價格を超過した價格であることは單に本件犯罪の動機目的…