本件のごとき犯罪において、物價廰長官の許可その他の法定の除外事由のあることは、刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事實上の主張」に該當し、その有無は同條第一項の「罪となるべき事實」に當らない。だから、被告人又は辯護人から原審において特にその主張のない限り、そして本件においてはかかる主張はなされなかつたのであるから、原判決においてこれについて何等の判斷を示さなかつたことは當然であつて何等の違法は存しないのである。
物價統制令違反罪における「罪ト爲ルベキ事實」との法定の除外事由不存在の事實との關係――法定の除外事由がある旨の主張と舊刑訴法第三六〇條第二項前段との關係
舊刑訴法360條1項,舊刑訴法360條2項
判旨
物価統制令違反の事案において、販売の相手方の明示は、他の事実により事件の具体性・同一性が判明している限り、罪となるべき事実の摘示として必須ではない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反の罪の判示において、販売の相手方(買主)の氏名を特定して摘示することは、刑訴法335条1項(旧刑訴法360条1項)の「罪となるべき事実」の摘示として不可欠か。
規範
刑訴法335条1項(旧刑訴法360条1項)にいう「罪となるべき事実」の判示においては、事件の具体性および同一性が判明する程度に事実を特定すれば足りる。構成要件上の重要性を欠く要素については、他の摘示事項によって事件が特定されていれば、必ずしも詳細な明示を要しない。
重要事実
被告人が物価統制令に違反し、超過価格で物品を販売したとして起訴された事案。原判決の事実に、販売の相手方(買主)が具体的に誰であるかという点について明示的な記載がなかったため、弁護人が事実摘示の不備を理由に上告した。
あてはめ
本件は物価統制令による価格違反事件であり、処断上の核心は公定価格を超えた販売行為そのものにある。買主が誰であるかは、本件の処断において重要な意義を持つものではない。他の判示事項によって、全体として事件の具体性・同一性が判明している以上、あえて買主を明示しなかったとしても、罪となるべき事実の摘示に欠ける違法があるとはいえない。なお、証拠によれば買主が共同被告人であることは明白であり、審理上の支障もない。
結論
販売の相手方を明示しなくとも、事件の同一性が特定されている限り、罪となるべき事実の摘示として適法である。
実務上の射程
事実摘示の程度に関する基準を示す。売買等の相対取引であっても、犯罪の性質上(経済統制法規等)、相手方の特定が構成要件の核心でない場合は、事件の同一性を害さない範囲で簡略化が可能である。答案上は、335条1項の記載程度を論じる際の参考となる。
事件番号: 昭和24(れ)3151 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
物価統制令第一三条の二違反の罪の判決には、法定の統制額を判示することも、該統制額を指定した物価庁告示の適用を示すことも、その必要がない。