辯護人が「訴訟の途中に於て本件公訴の提起が合憲性を有するや否やに付重大なる疑問を生じた」からといつて公訴棄却の申立をしても裁判所が事案を審理するに當り、これに關する辯護人の申立を却下するに際し、公訴提起の憲法適否につき理由を示さなければならぬことは憲法上も訴訟法上も要請されてはないのである。
辯護人のした憲法違反を理由とする公訴棄却の申立に對する却下決定と却下理由明示の要否
刑訴法338條,刑訴法44條,憲法78條3項
判旨
公訴提起の憲法適否に疑問があるとしてなされた公訴棄却の申立てを却下する際、裁判所がその憲法適否につき理由を示すことは憲法上も訴訟法上も要請されない。
問題の所在(論点)
公訴提起の合憲性に疑問があるとしてなされた公訴棄却の申立てを却下する際、裁判所は公訴提起の適憲性について理由を示す義務を負うか。
規範
公訴提起の適憲性に重大な疑問があるとの主張に基づく公訴棄却の申立てに対し、裁判所がこれを却下するにあたっては、公訴提起の憲法適否について具体的な理由を示す義務はない。これは、裁判所が事案を審理する際、憲法および刑事訴訟法上のいずれの観点からも要請されるものではない。
重要事実
被告人の弁護人は、本件犯行が脅迫によるもので期待可能性がなく、被告人らに犯意もなかったと主張した。その上で、このような事情にもかかわらず提起された公訴は起訴権の濫用であり憲法11条等に違反するとし、公訴棄却の申立てを行った。第一審裁判所が理由を示さずにこの申立てを却下し事実審理に入る旨の訴訟指揮をしたことに対し、弁護人は有罪の予断を抱いているとして異議を申し立てたが棄却された。これを不服として特別抗告がなされた事案である。
事件番号: 昭和44(し)19 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人等による公訴棄却の申立ては、裁判所の職権発動を促すものにすぎず、これに対する却下決定は刑事訴訟法433条1項の特別抗告の対象とはならない。 第1 事案の概要:被告人側(あるいは抗告人)が、公訴棄却を求める申立てを行った。これに対し、裁判所が当該申立てを却下する旨の決定を下したため、申立人はこ…
あてはめ
弁護人は、公訴提起自体に憲法違反の疑いがある以上、その却下決定には合憲性を基礎づける詳細な理由が必要であると主張する。しかし、裁判所が事案の審理を行う過程において、公訴棄却の申立てを却下する際に公訴提起の憲法適否について逐一理由を明示しなければならないという根拠は、憲法および刑事訴訟法の規定のいずれにも見出せない。したがって、理由を示さずに却下したとしても、直ちに違憲・違法の評価を受けるものではない。
結論
公訴棄却の申立てを却下する際に公訴提起の憲法適否につき理由を示す必要はない。本件特別抗告は棄却される。
実務上の射程
検察官の公訴提起が憲法違反や公訴権濫用にあたるとの主張に対し、裁判所が訴訟手続の段階でこれを退ける際の判示義務の程度を示している。実務上、訴訟指揮に対する異議申立て等において、詳細な憲法判断を伴わない却下決定の適法性を肯定する根拠として機能する。
事件番号: 昭和24新(つ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
公判期日において刑訴法第一四六條により証言を拒んだ証人並びに供述をした証人の檢察官に対する各供述録取書及び被告人の司法警察職員に対する供述録取書を、檢察官が証拠として提出したのに対して、弁護人から証人の右供述録取書は同法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていないものであり、被告人の右供述録取書は同法第三二二條によ…
事件番号: 昭和25(し)67 / 裁判年月日: 昭和25年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が訴訟手続上の異議申立てを却下した決定に対し、前提となる実体法上の論点について直接の判断が示されていない場合、判例違反を理由とする抗告は認められない。 第1 事案の概要:法人税法違反等の被告事件において、弁護人が「収税官吏の告発がないため公訴提起が違法無効である」と主張し、公訴棄却を求めた。…
事件番号: 昭和25(し)17 / 裁判年月日: 昭和28年1月22日 / 結論: 棄却
起訴状の謄本が所定期間内に送達されなかつたとして検察官がさらに控訴を提起した場合に、弁護人から同一裁判所に二重の起訴があつたものとして控訴棄却の申立があつたとしても、裁判所は、最終の判決自体においてその判断を示せばたり、その都度申立に対し決定することを要しない。
事件番号: 昭和25(ク)134 / 裁判年月日: 昭和26年10月27日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告は、法律により特に許された場合に限り認められ、民事事件においては憲法違反の判断を不当とする場合に限定される。実質的な憲法違反の主張を伴わない抗告は、不適法として却下される。 第1 事案の概要:抗告人は、最高裁判所に対し、原決定を不服として抗告を申し立てた。抗告理由は、書面上は…