一 強姦に際し婦女に傷害の結果を與えれば姦淫が未遂であつても強姦致傷罪の既遂となり、強姦致傷罪の未遂という觀念を容れることはできない。 二 被告人等は同女を強姦しようと共謀して判示犯行をとげたのであり、そして強姦致傷罪は結果的加重犯であつて、暴行脅迫により姦淫をする意志があれば、傷害を與えることについて認識がなくとも同罪は成立するのであるから共謀者全員が強姦致死罪の共同正犯として責を負わなければならない。 三 所論刑法第二〇七條は數人が共謀することなくして暴行をなし人を傷害した場合に關する規定であつて二人以上共謀して暴行をなし人を傷害した場合に適用はない、從つて被告人等が共謀して強姦をなし且つ傷害を與えた本件に同條の適用のないことは明白である。 四 被告人等の行爲が強姦致傷罪を構成する場合にはたとい被害者が告訴を取下げたとしても所論親告罪でない本件において公訴を棄却すべき理由はない。 五 被告人等は原審相被告人等と共謀して同一機會にFを順次に強姦したのであるから、(眞野兼二を除く)被告人等は自分の姦淫行為の外他の被告人等の姦淫行為についても共同正犯として責を負わなければならない。かような場合は一人で數回姦淫した場合と同様、連續犯となるという考え方もあると思はれるが數人が同一の機會に同一人を姦淫したのであつても全體を單一犯罪と見られないことはない。所論のように本件は連續犯と見るべきものであるとしても結局一罪として處罰されることになるのであるから、原判決が單一罪として處罰したのと同一結果となるわけであつて原判決に影響を及ぼさないから、破毀の理由とならない。 六 不法監禁罪と強姦致傷罪とは、たまたま手段結果の關刑にあるが、通常の場合においては、不法監禁罪は通常強姦罪の手段であるとはいえないから、被告人等の犯した不法監禁罪と強姦致傷罪は、牽連犯ではない。從つて右二罪を併合罪として處斷した原判決は、法令の適用を誤つたものではない。 七 論旨は刑法第一七七條の法意は一三歳以上の婦女を強姦した場合は、強姦の爲め處女膜裂傷の結果を生じても之れを放任行為となし、強姦罪が成立するだけであつて強姦致傷罪は成立しないという趣旨であると主張する。しかし強姦に際して婦女の身體の如何なる部分に傷害を與えても強姦致傷罪は成立するのである。 八 原判決は七首二振を沒収する旨言渡しながら、法律適用の部では沒収に關する法條を適用していないから、理由不備の違法があり、破毀をまぬがれない。 九 甲が他の数名の者と同一帰女を強姦しようと共謀し、右数名の者が同女を強いて姦淫し、因つて同女に傷害の結果を与えたときは、甲が自己の意思により姦淫することを中止したとしても、甲は他の共犯者と同様強姦致傷罪の共同正犯の責を負い、中止未遂とはならない。 一〇 公判調書に公開を禁止した旨の記載がないから原審公判は公開されたものと認めなければならない。(昭和二三年(れ)第一〇七號、同年六月三日大法廷判決參照)
一 強姦に際し婦女に傷害の結果を與えた行爲の擬律 二 強姦の共謀者中傷害の結果について認識を缺く者と強姦致傷罪の成立 三 二人以上共謀して暴行傷害を爲した場合と刑法第二〇七條の適用の有無 四 強姦致傷の被害者が告訴を取下げた場合と公訴棄却の裁判の有無 五 共犯者が順次同一人を強姦した所爲は單純一罪でなく連續犯であるとする上告理由の適否 六 不法監禁罪と強姦致傷罪とを併合罪として處罰した判決と牽連犯の成否 七 刑法第一七七條の法意 八 沒収の言渡をしながら法條を適用しない判決の違法 九 数名共謀による強姦致傷罪と共犯者の一人の犯行の中止 一〇 審判の公開を禁止した旨の記載を缺く公判調書と審判公開の有無
刑法181條,刑法177條,刑法60條,刑法207條,刑法220條,刑法54條,刑法19條,刑法43条,舊刑訴法364條5號,舊刑訴法409條,舊刑訴法360條1項,舊刑訴法60條2項,舊刑訴法64條,舊刑訴法10條7號,刑55條
判旨
強姦致傷罪において、犯行時に傷害の結果が発生していれば、姦淫の成否を問わず既遂が成立する。また、強姦と不法監禁の関係については、監禁が強姦の手段として通常用いられる行為とはいえないため、牽連犯ではなく併合罪となる。
問題の所在(論点)
1. 共同正犯の一人が姦淫を中止した場合に強姦致傷罪の未遂(中止未遂)が成立するか。 2. 傷害の発生が誰の行為によるか不明な場合でも共謀者全員が結果的加重犯の責を負うか。 3. 強姦致傷罪と不法監禁罪は牽連犯(刑法54条1項後段)となるか、あるいは併合罪(45条)となるか。
規範
1. 強姦致傷罪は結果的加重犯であり、暴行・脅迫により姦淫する意思があれば、傷害の認識がなくとも成立し、姦淫が未遂であっても傷害が生じれば同罪の既遂となる。 2. 刑法54条1項後段の「犯罪の手段」とは、ある犯罪の性質上、その手段として普通に用いられる行為を指す。単に現実の犯行において手段・結果の関係にあるだけでは足りず、両罪の間に密接な因果関係(典型的随伴性)が必要である。
重要事実
被告人らは共謀の上、被害者Fを不法に監禁し、順次強姦を試みた。その際、被告人の一人(E)は姦淫を中止したが、他の共犯者が強姦を行い、かつ暴行によりFに傷害を負わせた。また、犯行の手段として不法監禁が行われていたため、強姦致傷罪と不法監禁罪の罪数関係が争点となった。
あてはめ
1. 被告人らは強姦を共謀し、現に共犯者が強姦を遂げ、かつ傷害を発生させている。強姦致傷罪は傷害の結果が生じれば既遂となるため、姦淫を中止した者も共同正犯として既遂の責を免れず、中止未遂の余地はない。 2. 強姦の共謀がある以上、傷害が誰の行為か不明であっても、また傷害の認識がなくとも、結果的加重犯として全員が成立を免れない。 3. 不法監禁は通常強姦罪の手段として当然に含まれるものではない。本件ではたまたま手段・結果の関係にあるに過ぎないため、牽連犯の要件である「性質上の密接な因果関係」があるとは認められない。
結論
1. 姦淫未遂であっても傷害が生じれば強姦致傷罪(現:強制性交等致死傷罪)の既遂が成立する。 2. 強姦致傷罪と不法監禁罪は併合罪となる。
実務上の射程
結果的加重犯の共同正犯における基本判例である。特に罪数論における「牽連犯」の限定的な解釈(性質上の随伴性)は、現在の実務でも住居侵入罪と窃盗罪等の関係を理解する上での重要な基準となっている。
事件番号: 昭和24(れ)1530 / 裁判年月日: 昭和24年10月8日 / 結論: 棄却
本件強姦は、所論六名の者の通謀行爲であることは、原判決舉示の證據である原審公判廷における右六名の供述として、一人が姦淫している間他の者等はそれぞれ被害者の手足を押えた上、順次全員において輪姦した旨の供述によつて寔に明らかなところである。しからば本件強姦致傷の結果については、右六名中の何人がこれを與へたかについては明確で…
事件番号: 昭和41(あ)2135 / 裁判年月日: 昭和42年2月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車を用いて監禁し、その車内等で暴行・脅迫を加えて強姦・致傷に至った場合、監禁行為と強姦致傷行為はそれぞれ独立した行為として評価され、監禁罪と強姦致傷罪(当時)の併合罪となる。 第1 事案の概要:被告人は、被害者を自動車に押し込み、不法に監禁した。その後、車内等において強姦の目的で別途暴行および…