一 被告人が公判廷に出頭することは、權利であると同時に特別の場合を除いては義務であるから、正常の不事由なくして出頭しない被告人訴訟上ある種の不利益を受けることは當然であるといわなければならない、從つて舊刑訴法第四〇四條が再度の召喚に應じない被告人に對しては其陳述を聽かないで裁判を爲すことができるということを規定し、被告人にその不利益を歸せしめたとしても、それは被告人自ら求めた結果であつて、何等人權を抑壓するものではないから所論憲法の各條規(憲法第一一條、同第三一條、同第八一條、同第九八條等)に反するところなく原審において同條を適用したことについては違法はない。 二 論旨は裁判所は被告人の不出頭は正當の事由によるものであるか否かを調査しなければならないと主張するが、出頭することができない理由は、被告人においてこれを疏明すべきもので裁判所は被告人不出頭の事由を調査しなければならないものではない。記録を調べて見るに被告人並びに辯護人は原審が指定した公判期日三回共出頭せず、且つ不出頭の事由を疏明した形跡はない。そして昭和二三年一二月二日の第四回公判期日に際しては、所論至急電報を以て公判期日の延期を申請したに止り、何等出頭できない理由を疏明していないことは記録上明らかであるから、原審において舊刑訴法第四〇四條を適用し、被告人並びに辯護人不出頭のまま審理をとげたことは正當であつて所論の如き違法はない。 三 按ずるに如何なる被告事件を所謂必要的辯護事件となすべきかは専ら刑訴法によつて決すべきものであつて所論のように憲法第三一條、同第三七條第三項によつて定まるものではない。論旨は右憲法の規定により窃盜被告事件は必要辯護事件になつたものであると主張するが何等首肯すべき根據のない獨斷にすぎない。從つて新刑訴施行以前に行われた本窃盜被告事件の審理において辯護人の立會なくして審理したとしても所論のような違法はない。
一 舊刑訴法第四〇四條の合憲性 二 被告人不出頭の場合その理由の疏明なまきまま結審したことの正否 三 舊刑訴法の適用ある窃盜事件において辯護人の立會なくしてした審理適否
憲法11條,憲法31條,憲法98條,憲法81條,憲法37條3項,舊刑訴法404條,刑訴法289條
判旨
被告人の公判廷への出頭は権利であると同時に義務であり、正当な理由なく出頭しない場合に陳述を聴かずに判決をすることは、適正な手続(憲法31条)等に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が正当な理由なく不出頭の場合に、その陳述を聴かずに判決を行うことは、憲法31条等の適正手続の保障に反し違憲とならないか。また、不出頭の正当理由の有無を裁判所が職権で調査する義務があるか。
規範
公判廷への出頭は被告人の権利であると同時に、特別の事情がない限り義務としての性質を有する。したがって、被告人が正当な理由なく召喚に応じず出頭しない場合には、その陳述を聴かずに裁判を行うことができる。また、出頭できない正当な理由については、被告人側がこれを疎明すべき義務を負い、裁判所が職権で調査すべき事項ではない。
重要事実
窃盗被告事件において、被告人および弁護人は原審が指定した公判期日に3回にわたり出頭しなかった。第4回公判期日に際しても、被告人側は電報により期日の延期を申請したのみで、出頭できない具体的な正当理由を疎明しなかった。そのため、原審は旧刑事訴訟法404条に基づき、被告人らの不出頭のまま審理を終結し、判決を言い渡した。
あてはめ
被告人の出頭は義務である以上、正当な理由なくこれに反したことによる不利益(陳述権の喪失)は被告人自ら求めた結果といえる。本件では、被告人らは複数回の期日に欠席しており、さらに第4回期日でも延期を申し出るだけで客観的な支障を疎明していない。このような状況下で不出頭のまま判決を下すことは、迅速な裁判を確保し訴訟の遅延を防止するための合理的措置であり、人権抑圧にはあたらない。
結論
被告人不出頭のまま陳述を聴かずになされた判決は、憲法31条、11条等に違反せず、適法である。
実務上の射程
刑事訴訟における被告人の出頭義務と、不出頭時の制裁的措置(陳述権の放棄とみなす処理)の合憲性を基礎付ける。答案上は、被告人の権利放棄や訴訟不協力に対する不利益帰属の法理を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1092 / 裁判年月日: 昭和26年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判期日に出頭せず、弁護人のみが出頭して審理が行われた場合であっても、それが被告人の権利を不当に侵害するものではなく、手続規定に照らして適法であるならば、憲法上の適正手続に反しない。 第1 事案の概要:被告人が公判期日に出頭しなかった事案において、弁護人のみが公判に出席し審理が進められた。…