一 原判決の認定した事實によれば本件物件を金一五萬圓に見積り、被告人が買受けるキヤラコ代金の内金の代りとして交付したというのであるから、原判決において適応した昭和二〇年一一月二〇日厚生省令第四四號第一條にいわゆる「販賣」に該當するものと解すべきである。 二 塩酸ヂアセチルモルヒネを販売した行為が、相手方の詐欺に基くものとしても、右省令第一条違反罪は成立する。 三 原審公判調書によれば原審公判廷において裁判長は被告人Aをふくむ全被告人に對し、檢事控訴のあつたことを告げているので被告人は檢事が求刑をする時迄之を知らないとはいえないし、又何等辯護權行使に妨げとなることもないことを推認し得るから、假に檢事が控訴したことを被告人に通知しなかつたとしても原判決に影響を及ぼすことはないから破棄の理由とはならない。
一 厚生省令第四四號第一條にいわゆる「販賣」に該る一場合 二 相手方の詐欺により塩酸ヂアセチルモルヒネを販売した行為と昭和二〇年厚生省令第四四号第一条違反罪 三 檢事が控訴したことを被告人に通知することの要否
厚生省令44號1條,昭和20年11月20日厚生省44号塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ製剤ノ所有等ノ禁止及沒収ニ関スル件1条,舊刑訴393條,舊刑訴410條11號
判旨
麻薬の「販売」とは、通常の売買のみならず、債務の支払に代えて現物を譲渡する代物弁済のような態様も含まれる。また、対象物が高度の危険性を有する薬品であるとの認識があれば、その種類を確知していなくとも、未必の故意が認められる。
問題の所在(論点)
1. 麻薬であることを疑っていた場合に、故意(未必の認識)が認められるか。 2. 債務の支払(代金の内金)として麻薬を交付する行為が、禁止される「販売」に該当するか。
規範
1. 故意(麻薬取締法上の認識):対象物が麻薬であることについて、確定的な認識を要せず、その可能性を認識しつつ容認する「未必の認識」があれば足りる。 2. 販売の意義:法令が麻薬の所有・処分を厳格に禁止する趣旨に鑑みれば、対価を得て譲渡する通常の売却のみならず、債務の弁済として現物を交付するなどの一切の処分行為を包含する。
重要事実
被告人Aは、塩酸ヘロインと表示された缶を所持し、他人から「取締厳重な麻薬である」と教えられ、第三者に売却を依頼した際にも「あぶない薬品だ」との指摘を受けていた。その後、被告人は他者から衣類(キャラコ)を買い受けた際、その代金15万円の内金(手付金)の代わりとして、本件ヘロインを相手方に交付した。被告人は、詐欺に遭って本件物件を交付したに過ぎないから「販売」に当たらない、また本物か疑っていたため故意がないと主張して上告した。
あてはめ
1. 故意について:被告人は、物件の表示や周囲の指摘から、対象物が「取締厳重な麻薬」ないし「あぶない薬品」であることを知っていた。仮に本物か否かを疑っていたとしても、高価に売れる危険な薬品であるとの認識があった以上、塩酸ヘロインであることの未必の認識があったといえる。 2. 販売について:被告人は物件を15万円と見積もり、衣類の買受代金の内金として交付している。本件省令が麻薬の処分を一切禁止する趣旨である以上、このように代金債務の支払に充てる譲渡も「販売」に該当する。また、譲渡の動機に詐欺等の瑕疵があったとしても、販売罪の成否には影響しない。
結論
被告人の行為には麻薬であることの未必の故意が認められ、代金の内金として麻薬を交付する行為は「販売」に該当する。
実務上の射程
代物弁済的な譲渡を「販売」に含む点や、危険な薬物であるとの抽象的な認識から未必の故意を認めるロジックは、現在の薬物5法(麻薬、覚醒剤、大麻等)における営利目的譲渡や所持の故意の立証において、現在でもそのまま通用する判断枠組みである。
事件番号: 昭和24(れ)2552 / 裁判年月日: 昭和26年1月30日 / 結論: 棄却
一 右厚生省令第一条は、「塩酸ヂアセチルモルヒネ及其ノ一切ノ製剤ハ之ヲ所有、使用、破棄、贈与、受贈、分配又ハ輸送スルコトヲ得ズ」と規定しているのであるから、同条は右薬品およびその一切の製剤の所有や使用ばかりでなく、すべての処分行為をも禁止している趣旨であること明らかである。されば、その処分行為は有償であると無償であると…
事件番号: 昭和26(れ)2495 / 裁判年月日: 昭和27年6月25日 / 結論: 棄却
憲法第三八条第三項にいわゆる「本人の自白」には、判決裁判所の公判延における被告人の自白を含まない。