憲法第三八条第三項にいわゆる「本人の自白」には、判決裁判所の公判延における被告人の自白を含まない。
憲法第三八条第三項にいわゆる「本人の自白」
憲法38条3項
判旨
憲法38条3項の「本人の自白」には、判決裁判所の公判廷における自白は含まれない。また、法律の不知は犯罪構成事実の認識を欠くものではないため、犯意は阻害されない。
問題の所在(論点)
1. 判決裁判所の公判廷における被告人の自白は、憲法38条3項の補強証拠を要する「自白」に含まれるか。 2. 行為が取締処罰の対象であることを知らない場合(法律の不知)、犯罪の故意(犯意)は阻害されるか。
規範
1. 憲法38条3項が補強証拠を必要とする「本人の自白」とは、公判廷外の自白を指し、判決裁判所の公判廷における自白はこれに含まれない。 2. 刑法上の犯意の成立には、犯罪構成事実に該当する事実の認識が必要であるが、自己の行為が法令により禁止・処罰の対象となることを知らない(法律の不知)に過ぎない場合は、犯意を欠くものとはいえない。
重要事実
被告人は、厚生省令により所有等が禁止・没収の対象とされていた塩酸ヂアセチルモルヒネ(ヘロイン)75グラムを代金2,000円で販売した。原判決は、被告人の原審公判廷における自白のみを証拠として犯罪事実を認定した。これに対し被告人側は、①公判廷の自白のみによる有罪判決は憲法38条3項に反すること、②当該行為が法令で禁止されていることを知らなかったため犯意がないことを主張して上告した。
事件番号: 昭和26(れ)1079 / 裁判年月日: 昭和26年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が実質的に事実誤認の主張に帰し、刑事訴訟法405条の適法な上告理由に該当しない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てたが、その趣旨は原審の認定した事実関係を争うものであった(詳細な具体的犯罪事実は判決文からは不明)。 第2 問題の所在(論点):被告人が…
あてはめ
1. 自白の補強証拠に関する点について、憲法38条3項の趣旨は、自白の偏重による拷問等の弊害を防止し、実体的真実を確保することにあるが、判例上、判決裁判所の公判廷における自白はこの「自白」に含まれないと解されている。本件では、原判決が被告人の公判廷における供述のみに基づいて事実を認定しているが、これは同条項に違反するものではない。 2. 犯意について、被告人がヘロインの販売という事実を認識している以上、それが厚生省令により禁止・処罰されることを知らなかったとしても、それは単なる法律の不知である。犯罪構成事実に欠けるところはなく、犯意の成立は妨げられない。
結論
1. 公判廷の自白は憲法38条3項の「自白」に当たらないため、補強証拠なしに有罪とすることができる。 2. 禁止規定の不知は法律の不知に過ぎず、犯意は認められる。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法319条2項は、憲法の趣旨を拡張し「公判廷における自白」にも補強証拠を必要としているが、本判決(多数意見)は、公判廷の自白のみで有罪とした場合の違憲性を否定した。ただし、実務上は刑訴法319条2項により公判廷の自白にも補強証拠が不可欠であるため、法令違反(訴訟手続の法令違反)として破棄事由にはなり得る点に留意が必要である。また、故意の成立に違法性の意識が不要(法律の不知は宥恕されない)とする刑法38条3項の原則を確認した事例としても重要である。
事件番号: 昭和25(あ)3186 / 裁判年月日: 昭和26年12月20日 / 結論: 棄却
昭和二〇年厚生省令第四四号は、麻薬中その製剤が最も容易で且つ人体に及ぼす害毒が極めて激烈である塩酸ヂアセチルモルヒネ及びその一切の製剤だけを限つて、その所有、使用、破棄、販売、購入、贈与、受贈分配又は輸送を禁止し且つこれが届出、沒収等を定めた特別の規定であり、また、同二一年同省令二五号は、同令二条所定の麻薬一般について…
事件番号: 昭和24(れ)1474 / 裁判年月日: 昭和24年8月9日 / 結論: 棄却
一 訴訟手續に關する法規が改正された場合に新法を如何なる時から如何なる事件に適用するかは、經過法の立法に際して諸般の事情を勘案して決せらるべき問題であつて、法律に一任されているのである。(昭和二三年(れ)第一五七七號、同二四年五月一八日當裁判所大法廷判決参照) 二 刑訴應急措置法第一三條第二項は、上告に際し、人種、信條…
事件番号: 昭和24(れ)400 / 裁判年月日: 昭和24年7月26日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した事實によれば本件物件を金一五萬圓に見積り、被告人が買受けるキヤラコ代金の内金の代りとして交付したというのであるから、原判決において適応した昭和二〇年一一月二〇日厚生省令第四四號第一條にいわゆる「販賣」に該當するものと解すべきである。 二 塩酸ヂアセチルモルヒネを販売した行為が、相手方の詐欺に基くもの…
事件番号: 昭和23(れ)1576 / 裁判年月日: 昭和24年3月22日 / 結論: 棄却
裁判所が言渡したのは判決ではなく法定期間内に上告趣意書の提出が無かつたことを理由として上告を棄却した決定であること記録により明らかである。決定に對しては右法條に基く再上告は許されないこと勿論であるから本件上告は刑事訴訟法施行法第二條舊刑事訴訟法第四四五條によりこれを棄却すべきものである。(當裁判所昭和二三年(れ)第一〇…