被告人は、廣島財務局長の通牒によつて權限を授與された松江税務署長の任命權に基づいて同署雇に任用せられたものである。右財務局長が税務署長に對し右の如き授權をする權限のあることは法令上明らかであるから同被告人は、法令に基いて任命された税務署の職員であることは明瞭である。しかして原判決の確定するところによれば、同被告人は昭和二一年一月から同二二年六月三〇日まで右雇として同署直税課第一係に勤務し、同係係長等の命を受けて、同署管内居住の個人の納税義務者に對する所得税の賦課について、所得税額の決定上參考となる資料の蒐集、納税義務者の帳簿の調査等の事務を擔當していたというのであるから、同被告人が同署雇として同署所管の公務に從事していたことは明らかである。しからば、同被告人が右職務に關し賄賂を收受した事實を認定しこれに對し刑法第一九七條に問擬した原判決に所論のような違法ありとすることはできない。
税務署の雇員と公務員―税務署の雇員と收賄罪の成立
刑法197條1項,刑法7條1項
判旨
税務署長の任命権に基づき雇員として任用され、所得税の賦課に関する調査等の事務を担当していた者は、刑法上の公務員に該当し、その職務に関し賄賂を収受した場合は収賄罪が成立する。
問題の所在(論点)
税務署の「雇員」として事務の補助等に従事する者が、刑法197条1項(収賄罪)の主体である「公務員」に該当するか。特に、形式的な任用権限の委任の適法性と、従事する事務の公務性が問題となる。
規範
刑法上の「公務員」とは、法令に基づき公務に従事する者をいう。任命権者から適法に授権された権限に基づく任命手続を経て公的機関に任用され、当該機関の所管する事務の一部を分担・従事している場合には、その身分(雇員等)を問わず「公務員」に該当する。
重要事実
被告人Aは、広島財務局長から通牒によって任命権を授与された松江税務署長により、同署の雇員として任用された。Aは同署直税課第一係に勤務し、係長の命を受けて、管内居住の個人納税義務者に対する所得税の賦課に関し、税額決定の参考となる資料の収集や帳簿の調査等の事務を担当していた。Aは、これらの職務に関して賄賂を収受したとして、収賄罪で起訴された。
あてはめ
まず、広島財務局長が税務署長に対して任用権を授ける権限があることは法令上明らかであり、その授権に基づく松江税務署長の任命は適法である。したがって、Aは「法令に基づいて任命された税務署の職員」であると認められる。次に、Aの具体的職務は、所得税の賦課という税務署の基幹的公務について、その決定に直結する資料収集や帳簿調査を行うものであった。これは税務署の所管する公務に従事しているといえる。以上より、Aは刑法上の公務員としての属性を備えていると評価される。
結論
被告人Aは刑法上の公務員に該当し、その職務に関して賄賂を収受した行為について収賄罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、公務員の定義について、任用権限の委任関係と実質的な職務内容の両面から判断を示したものである。答案上は、公務員該当性が問題となる場面(補助的職務に従事する非常勤職員や臨時職員等)において、適法な任用手続の有無と、従事する事務の公務性を具体的事実から認定する際の論理モデルとして活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3562 / 裁判年月日: 昭和32年8月30日 / 結論: 棄却
建設省訓令第五号「国家公務員法第五五条第二項の規定により任命権の委任に関する訓令」もまた刑法七条にいう法令のうちに含まれる。