一 公務員の賄賂収受罪を判示するに当つては、公務員であることを判断しうる具体的事実を示しその者が職務に関し賄賂を収受した事実を説明すれば足り、公務員たることの資格を認められる法令上の根拠までも示す必要はないのである。(昭和二四年(れ)第八五六号、同二五年二月二八日第三小法廷判決。最高裁判所判例終四巻二号二六八頁参照) 二 被告人は兵庫県知事より任命された国費支弁の雇であつたことが窺われる。そして、同知事にかかる雇の任命権があつたことは大正十五年六月四日勅令第一四七号地方官々制第五条第八条一行の規定の趣旨に徴し明らかである。されば、原判決は被告人の公務員たる判示に欠くるところはない。
一 賄賂収受罪判示の程度−公務員たる法令上の根拠を示す要否 二 兵庫県雇と公務員
旧刑訴法360条1項,刑法197条,刑法7条
判旨
賄賂収受罪の成立要件である「公務員」の該否を判示するには、公務員と判断しうる具体的事実を示せば足り、公務員の資格を認める法令上の根拠までを明示する必要はない。
問題の所在(論点)
賄賂収受罪(刑法197条1項前段)の主体である「公務員」であることを認定するために、判決文において、公務員としての資格を付与する具体的法令上の根拠までを判示する必要があるか。
規範
刑法上の公務員(刑法7条)にあたるか否かを判断するにあたっては、その者が公務に従事する資格の根拠となる具体的な法令の条項までを判決文に明記する必要はなく、公務員であることを客観的に判断しうる具体的事実(職位、配属、担当業務の内容等)及びその者が職務に関して賄賂を収受した事実を説明すれば、罪刑法定主義ないし判示事項の適法性として十分である。
重要事実
被告人は兵庫県雇(やとい)として、同県経済部商工課指導係、特殊物件課隠匿物資係、賠償課隠退蔵物資係に順次勤務していた。被告人は、昭和21年12月頃から同22年2月頃までの間、隠匿物資等緊急措置令に基づく隠匿物資の買上げや配給に関する職務を担当していたが、その職務に関し、業者から数回にわたり合計2万7000円の現金を賄賂として受領した。弁護人は、被告人が公務員であることを明示するには任命根拠となる具体的な法令を特定すべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件被告人は、兵庫県知事によって任命され、国費から給与が支弁される「雇」の地位にあり、当時の地方官官制等の規定に基づき知事に任命権限が認められる職であった。原判決は、被告人が兵庫県経済部の各係において「隠匿物資等緊急措置令に基づく隠匿物資の買上げ、配給等に関する職務を担当していた」という具体的事実を詳細に認定している。これらの事実は、被告人が法令に基づき公務に従事する公務員であることを判断するに足りる具体的な事実の適示といえる。したがって、任命根拠法令の個別具体的な条項を摘示せずとも、公務員性の認定に欠けるところはない。
結論
公務員であることを判断しうる具体的事実を認定していれば足り、公務員資格の法令上の根拠まで示す必要はない。本件被告人の公務員性は適法に認められる。
実務上の射程
公務員職種が多様化する現代においても、身分認定において「実質的に公務に従事する法的地位」が具体的事実から認定できれば、根拠法令の全列挙は不要とする実務指針として機能する。ただし、特別職や委託業務など公務員性が争点となる事案では、職務の公共性や任命プロセスの事実認定が極めて重要となる。
事件番号: 昭和26(あ)219 / 裁判年月日: 昭和27年7月22日 / 結論: 棄却
刑法第一九七条第一項後段の請託とは、公務員に対して、その職務に関して一定の行為を行うことを依頼することであつて、その依頼が不正な職務行為の依頼であると、正当な職務行為の依頼であるとを問わない。