一 虚偽の射鎖預金支払請求書を提出し預金支払名義の下に金員を騙取したときは、その後金融緊急措置令に改廃があつても詐欺の罪責に影響を及ぼさない。 二 原判決の認定したところは、被告人が銀行員係員に對し、費用、事務員の氏名等につき不實の記載をした封鎖預金支拂請求書を恰も眞正なものゝように装つて提出して支拂を求め行員をその旨誤信せしめて現金を交付せしめて騙取したというのであつて、同令によれば封鎖預金等については、預金者は、所定の條件に基き支拂を請求する場合の外支拂禁止の解除される迄その支拂の請求を爲す權利を有しないものであり、從つて銀行その他の金融機關は支拂解除に至る迄支拂を爲さざる利益を有するものであるから、被告人の判示所爲に因り判示銀行に被害なしといゝ得ない。されば、被告人の判示所爲は、刑法詐欺罪を構成すること多言を要しない。
一 虚偽の封鎖預金支払請求書による預金払戻と金融緊急措置令の改廃 二 銀行員を欺罔して不實の記載をした封鎖預金支拂請求書により預金を交付せしめた行爲と詐欺罪の成否
刑法246条1項,刑法6条,刑法246條,金融緊急措置令11条,昭和23年法律184號金融機関再建整備法附則5条2項3項
判旨
金融緊急措置令に基づく封鎖預金の払い戻しにおいて、不実の記載をした請求書を用いて銀行員を誤信させ現金を交付させた行為は、銀行に支払を拒絶し得る利益がある以上、詐欺罪(刑法246条1項)を構成する。
問題の所在(論点)
金融緊急措置令により預金者に対する罰則がない場合であっても、虚偽の理由で封鎖預金の払い戻しを受ける行為に「被害」が認められ、詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)の成立には、欺罔行為によって相手方が錯誤に陥り、その錯誤に基づく処分行為によって財物または財産上の利益が移転し、かつ被害者に損害が生じたことが必要である。法令により支払が制限されている預金について、銀行は支払禁止が解除されるまで支払を拒絶し得る法的利益を有しているため、不当な請求により現金を交付させることは、銀行に対する被害があるものとして詐欺罪を構成する。
重要事実
被告人は、金融緊急措置令により原則として支払が禁止されていた封鎖預金について、費用や事務員の氏名等について不実の記載をした支払請求書を作成した。被告人は、当該請求書が真正なものであるかのように装って銀行係員に提出し、これを信じた係員から現金合計167万7491円余の交付を受けた。
あてはめ
金融緊急措置令下において、預金者は所定の条件を満たさない限り、支払禁止が解除されるまで預金の支払を請求する権利を有しない。これに対し、銀行側は支払禁止が解除されるまで支払を拒絶し得る利益を有している。被告人が不実の請求書を用いて銀行係員を誤信させ、本来拒絶できたはずの現金を交付させたことは、銀行の有する上記利益を侵害し、財産的損害を与えたといえる。したがって、被告人の行為は詐欺罪の構成要件を充足する。
結論
被告人の行為は刑法246条1項の詐欺罪を構成する。
実務上の射程
本判決は、預金という自己の権利に基づく請求であっても、法令等により支払停止の制限がある場合には、虚偽の手段でその制限を免れて支払を受ければ詐欺罪が成立することを示した。答案作成上は、実質的な財産的損害の有無が争点となる場面において、支払拒絶権という消極的利益も保護法益に含まれ得ることを説明する際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(れ)78 / 裁判年月日: 昭和28年3月17日 / 結論: 棄却
第一封鎖預金は正当な理由がなければ払戻を受けて使用することができないものであるにかかわらず、内容虚偽の代金請求書を呈示して小切手等に認証を受けた上は被告人はその企図したとおり、これを債務の弁済等に充当することができるようになつたのであるから、これはまさしく判示のとおり財産上不法な利益を得たものである。従つて原判決がこれ…