被告人がAから恐喝取得した判示の各物件が、同人所持の連合國占領軍若しくはその將兵の財産に屬するものであることは所論のとおりである。然し刑法における財物取罪の規定はたとえ法律上その所持を禁ぜられて居る場合でも、現實にこれを所持して居る事實がある以上社會の法的秩序を維持する必要からして物の所持という事實上の状体それ自体が保護せられ、みだりに不正の手段によつてこれを侵すことを許さぬものであること當裁判所の判例とする處である。(昭和二三年(れ)第九六七號同二四年二月一五日言渡判決)。さればAが右物件を所持することが所論政令によつて禁ぜられて居るとしても被告人等において不正の手段によつてこれが所持を奪うことの許されないこと勿論である。從つて被告人等において判示の如く、Aを恐喝して之を不法に領得した以上恐喝罪を構成すること當然で論旨は採用に値しない。
所持を禁止せられている物に對す恐喝罪の成立
刑法249條1項,昭和22年政令165號1條1項
判旨
刑法における財物罪の規定は、物の事実上の所持そのものを保護の対象とするため、被害者の所持が法律上禁じられた不法なものであっても、恐喝罪等の財物罪は成立する。
問題の所在(論点)
刑法上の財物罪(本件では恐喝罪)における保護法益について、法律上所持が禁止されている不法な所持であっても、同罪の客体となり得るか。すなわち、財物罪の保護法益を「本権」と解すべきか「所持」と解すべきかが問題となる。
規範
刑法における財物罪の規定は、人の財物に対する事実上の所持を保護しようとするものである。したがって、所持者が法律上の正当な権限を有するか否か、あるいは法律上でその所持が禁止されている場合であっても、現実にこれを所持している事実がある以上、社会の法的秩序を維持する観点から、その所持という事実状態それ自体が保護される。ゆえに、不正の手段によってこの所持を侵すことは許されない。
重要事実
被告人は、被害者Aが所持していた物件を恐喝によって取得した。当該物件は、連合国占領軍またはその将兵の財産に属するものであり、当時の政令によって被害者Aがこれらを所持することは禁止されていた。被告人は、Aの所持が違法であることを理由に、恐喝罪の成立を争って上告した。
あてはめ
本件において、被害者Aが占領軍の財産を所持することは政令により禁じられていた。しかし、刑法が保護するのは正当な権限の有無にかかわらず「現実に物を所持している」という事実状態である。被告人がAを恐喝し、畏怖したAから物件の交付を受けてこれに不法領得した以上、Aの所持の不法性を問わず、被告人の行為は社会的な法的秩序を乱す不正な侵害行為といえる。したがって、Aの所持が禁制物の所持であっても、被告人には恐喝罪が成立する。
結論
被害者の所持が法律上禁止されている場合であっても、これを恐喝して領得した以上、恐喝罪を構成する。本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
財物罪の保護法益について「占有説(所持説)」を採用した古典的な重要判例である。答案上では、盗品や禁制品(覚醒剤等)を窃取・喝取した場合に、被害者の占有が違法であっても財物罪が成立することを基礎づける論拠として活用する。自救行為や権利行使の場面を除き、事実上の所持に対する不正な侵害を広く処罰する実務上の指針となっている。
事件番号: 昭和22(れ)683 / 裁判年月日: 昭和23年11月4日 / 結論: 棄却
被告人が一定の期間法定の除外事由なくして本件日本刀を所持していた事實が認定される以上、その日本刀の所有權が何人に屬していたとか、或はその間接所有者が何人であつたかというような事情は本件銃砲等所持禁止令違反罪の成立には何等の消長をも來たすものではない。