所論水増し課税や徴税目標額に基く課税方法が不當なものであつても、その課税方法竝に課税額等の變更をなさしむる爲め税務署係官を脅迫した場合は職務強要罪にあたる。
職務強要罪にあたる一事例
刑法95條2項
判旨
公務員に対する「脅迫」とは、相手方に畏怖心を生ぜしめるための害悪の告知をいい、たとえ行政側の課税処分等に不当な点があるとしても、直接的な脅迫手段を用いてその是正を求める行為は正当化されず、公務執行妨害罪が成立する。
問題の所在(論点)
刑法95条(旧刑法95条2項)の「脅迫」の意義、および行政側の課税方法が不当である場合に、直接的な脅迫手段を用いて是正を求める行為の違法性阻却の成否が問題となる。
規範
刑法95条にいう「脅迫」とは、相手方に畏怖心を生ぜしめるに足りる害悪の告知を指す。また、公務員の職務執行に不当な点がある場合であっても、法治国の理念に照らし、法律上の不服申立手続によらずに直接的な脅迫手段を用いて義務なきことを行わせ、または正当な職務を妨げる行為は、違法性が阻却されない。
重要事実
被告人らは、税務署長らに対し、再審査申請中の者への強制徴収を行わないこと等の要求事項を掲げ、約8時間にわたり交渉を続けた。その際、多数の集会者と共に「回答があるまで帰さない」等の言辞を弄し、椅子を取り上げ、果物の食いさしを投げつけ、用便にさえ監視を付けるなど、多衆で危害を加えるような威勢を示した。これにより署長らに「要求に応じなければ身体に危害を加えられるかもしれない」との畏怖心を与え、確認書を差し入れさせた。
事件番号: 昭和28(あ)2695 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条1項の公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員に対し直接加えられるものであることを要せず、公務員に向けられた有形力の行使であれば間接的であっても同罪を構成する。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際し暴行を及ぼしたとして公務執行妨害罪等で起訴された。弁護人は、当該暴行が公務…
あてはめ
被告人らの行為は、多衆の威勢を背景に、長時間にわたり身体の自由を制約し、言辞や動作によって署長らに害悪を告知したものである。これは相手方に「身体に危害を加えられるかもしれない」という畏怖心を生ぜしめるに足りるため、同条にいう「脅迫」に該当する。また、仮に水増し課税等の不当な事情があったとしても、税法所定の審査・訴願・訴訟という適法な是正手続が存在する以上、自力救済的な脅迫手段を用いることは法治国の理念に反し、正当な行為とは認められない。
結論
被告人らの所為は公務執行妨害罪(職務強要罪)を構成し、その違法性は阻却されない。したがって、被告人らを現行刑法95条に相当する罪で処断した原判決は正当である。
実務上の射程
公務執行妨害罪における「脅迫」の定義を明示するとともに、公務の適法性・妥当性に疑義がある場合でも、適法な手続によらない実力行使は正当化されないという原則(自力救済の禁止)を論証する際に用いる。答案上では、職務の適法性が争点となる場面で、手段の相当性や違法性阻却の文脈で引用するのが効果的である。
事件番号: 昭和24(れ)1601 / 裁判年月日: 昭和25年10月11日 / 結論: 棄却
一 A市長夫人Bが被告人C等に対して家宅捜索の承諾を与えたのは、赤旗を擁した多数の威力を背景とする同人等の言動に威圧されたためであつて、その真意から出たものでないことをCも知つていたことは、原判決挙示の各証拠就中Dに対する予審判事の証人訊問調書中同人の供述記載によつて十分に推認することができる。それ故に原判決には所論の…
事件番号: 昭和28(あ)5214 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公共職業安定所による失業者への就職斡旋は使用者と勤労者の関係に立つものではないため、これに対する行動は憲法28条が保障する団結権や団体行動権の行使には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、公共職業安定所が失業者に対して行う就職の斡旋業務に関連して、何らかの犯罪行為(具体的な罪名は判決文からは不…