一 A市長夫人Bが被告人C等に対して家宅捜索の承諾を与えたのは、赤旗を擁した多数の威力を背景とする同人等の言動に威圧されたためであつて、その真意から出たものでないことをCも知つていたことは、原判決挙示の各証拠就中Dに対する予審判事の証人訊問調書中同人の供述記載によつて十分に推認することができる。それ故に原判決には所論のように証拠によらずしてCの犯意を認定したという違法はない。 二 予審制度は現在廃止せられているけれども、その廃止以前に適法に作成された予審訊問調書が証拠能力を有することは、当裁判所の判例(昭和二二年れ第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)の趣旨とするところである。 三 市民のため食糧を獲得すること又は市長や食糧営団の職員に反省を促すことが目的として正しいとしても、それだけでその目的を達成するための手段がすべて正当化される訳ではない。その手段は秩序を守りつゝ個人の自由や権利を侵さないように行われなければならない。けだし秩序が維持されることも個人の基本的人権が尊重されることもそれ自体が公共の福祉の内容を成すものだからである。それ故に原判決が被告人等の所為を公共の福祉に反するものとし、正常の行為に非ずと断じたのは当然である。 四 憲法第二八条にいわゆる団結権、団体交渉権等は、単なる一般市民の集合には適用されない。 五 仮りに所論のように、当局者が隠匿摘発物資の励行を怠つていたとしても、本件被告人がしたような方法(赤旗を擁した多数の威力を背景として家宅捜索の承諾を得た)によつてこれを摘発することが不当であつて、違法性阻却の事由とならないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)に徴して明らかである。
一 家宅捜索について居住者の不任意の承諾と住居侵入罪 二 予審制度廃止以前に作成された予審訊問調書の証拠能力 三 目的の正否と公共の福祉 四 憲法第二八条にいわゆる団結権等の意義 五 権限を有しない者の隠匿物資摘発行為と違法性阻却の理由
刑法130条,刑法第1編第7章(犯罪ノ不成立及ビ刑ノ減免),刑法35条,旧刑訴法300条,刑訴応急措置法9条,憲法12条,憲法13条,憲法28条
判旨
食糧獲得等の目的が正当であっても、多数の威力を用いて他人に義務なきことを行わせるなどの手段は公共の福祉に反し、違法性は阻却されない。また、一般市民の集合体による行動には憲法28条の労働基本権の保障は及ばない。
問題の所在(論点)
食糧獲得という正当な目的のために行われた、多数の威力を用いた強要行為や住居侵入行為について、刑法35条の正当行為または刑法37条の緊急避難として違法性が阻却されるか。
規範
事件番号: 昭和25(あ)3252 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合の団体交渉等の行為が正当化されるのは、労働組合法所定の目的を達成するためにした正当な行為に限られる。正当な限度を逸脱した暴力行為は、いかなる場合においても許されず、憲法28条による保障の対象外である。 第1 事案の概要:被告人らは、共産党の闘争方針の一環として本件行為に及んだ。第一審および…
行為の目的が正当であったとしても、その手段は社会秩序を維持し、他人の自由や権利を侵害しない範囲で行われなければならない。秩序の維持および基本的人権の尊重は、それ自体が公共の福祉の内容を構成するため、これに反する手段を用いた行為は正当な行為として違法性が阻却されることはない。
重要事実
食糧不足の状況下、被告人らは市長に対し食糧獲得や隠匿物資の摘発を求めた。被告人Eらは、共同して食糧営団の地区事務所長に対し、多数の威力を用いて威圧し、本来義務のないコッペパンの即時配給や引渡指図書の作成を強要した。また、被告人Cらは、多数の威力を背景に市長夫人の承諾を事実上強制し、その家宅に立ち入った。これらの行為が、目的の正当性に基づき正当行為または緊急避難として違法性が阻却されるかが争点となった。
あてはめ
被告人らの目的が市民のための食糧獲得や当局への反省喚起であったとしても、その手段は他人の権利を侵害し秩序を乱すものである。食糧営団職員に対し、責任問題が生じることを認識させつつ強引に指図書を作成させた行為は「義務なきこと」を強いたものであり、手段の相当性を欠く。また、市長宅への立ち入りも、多数の威力による威圧の結果であり、真意に基づく承諾とはいえない。これらは公共の福祉に反し、緊急避難の要件も満たさないため、正当化されない。
結論
被告人らの行為は正当行為にも緊急避難にも該当せず、強要罪および住居侵入罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
自救行為の限界や、社会的・政治的な目的を有する行動の違法性阻却事由(刑法35条)を検討する際のリーディングケースとなる。目的が正当であっても、法秩序の枠内での手段選択が必要であることを示す。また、憲法28条が労働者以外の一般市民に適用されない点も実務上重要である。
事件番号: 昭和24(れ)2654 / 裁判年月日: 昭和25年3月28日 / 結論: 棄却
所論水増し課税や徴税目標額に基く課税方法が不當なものであつても、その課税方法竝に課税額等の變更をなさしむる爲め税務署係官を脅迫した場合は職務強要罪にあたる。
事件番号: 昭和24(れ)3057 / 裁判年月日: 昭和27年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項の刑事免責は、同条1項の目的達成のためにされた正当な行為にのみ認められるものであり、団体交渉等の際に行われた刑法上の暴行罪や脅迫罪に該当する行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議における要求貫徹のための団体交渉の場において、多衆の威力を示し、住居侵入、暴行…