憲法が刑事被告人に辯護人を依頼する權利を認め、辯護權を尊重していることは所論の通りである。しかし憲法はまた、刑事裁判が迅速になされることをも要求しているゆえ、裁判所は刑事々件の公判期日を辯護人のたび重なる變更申請によつて際限なく延期しなければならないものではない。たとい、公判期日の變更申請が辯護人の他の裁判所における訴訟事件立會のための差支によるものであつても、それがたび重なるにおいてはかゝる事由は期日の變更を求める正當な理由とはならない。むしろ、辯護人においては他の裁判所における訴訟事件につき期日の變更を求める等適宜の方法をとるべきであり、もしそれが困難な場合には被告人において他の辯護人を依頼する等の措置に出ずべきである。そして、辯護人において正當な理由がなく公判期日に出頭しないときに、その辯護人の立會なく事件の審判を行つても、それは不法に辯護權の行使を制限するものでないことについては、すでに當裁判所の判例に示すところである(昭和二四年(れ)第一〇六六號同年一二月二二日言渡第一小法廷判決)。されば、原審が冒頭に述べたような事實關係の下に辯護人の公判期日變更申請を却下して、辯護人の立會なくして事件の審判を進めたことは正當であつて、所論のように不法に辯護權の行使を制限したものではない。
辯護人のたび重なる公判期日變更申請に對する却下と辯護權の不法制限の不法制限の有無
舊刑訴法410條11號,舊刑訴法320條1項,舊刑訴法320條2項
判旨
刑事被告人の弁護権は尊重されるべきであるが、裁判の迅速(憲法37条1項)も要請されるため、弁護人の度重なる期日変更申請によって裁判所が際限なく延期を繰り返す義務はない。他の訴訟事件との重複を理由とする変更申請が繰り返される場合、それは期日変更の「正当な理由」には当たらず、弁護人不在のまま審理を進めても不法な弁護権制限にはならない。
問題の所在(論点)
弁護人が他の訴訟事件との重複を理由として度重なる公判期日の変更申請を行った場合に、裁判所がこれを却下して弁護人不在のまま審理を進めることが、不法な弁護権の行使制限(憲法37条3項違反)に該当するか。
規範
憲法が保障する被告人の弁護人依頼権(37条3項)は尊重されるべきであるが、一方で裁判の迅速(37条1項)も憲法上の要求である。したがって、弁護人の公判期日変更申請が他の訴訟事件への立会等を理由とするものであっても、それが度重なる場合には、もはや期日変更を求める「正当な理由」とは認められない。この場合、裁判所は期日変更申請を却下し、弁護人の不出頭のまま審理を進めることが許される。
事件番号: 昭和25(れ)1399 / 裁判年月日: 昭和25年12月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法が保障する裁判を受ける権利は、偏頗でない公平な組織構成を有する裁判所の裁判を受ける権利を意味する。必要弁護事件に該当せず、かつ被告人からの選任請求がない場合、弁護人を選任するか否かは裁判所の裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人は、原審(控訴審)の第2回公判期日に、自身で選任した弁護人の…
重要事実
被告人は第1回公判期日から適法な召喚を受けながら無届で欠席を続けていた。弁護人は、第1回期日を他裁判所の民事事件への差支を理由に延期し、第2回期日も他裁判所の刑事事件への差支を理由に延期させた。さらに第3回期日についても同様の理由で変更申請を行ったが、原審はこれを却下し、弁護人不出頭のまま即日結審し、後日判決を宣告した。弁護側は、これが不法な弁護権の制限に当たると主張して上告した。
あてはめ
本件において、弁護人は3回にわたり他事件との重複を理由に期日変更を申請している。このような申請が度重なる場合、弁護人は他事件の期日変更を試みるか、困難であれば被告人が別の弁護人を依頼する等の措置を講じて延期を回避すべきである。本件のように変更が繰り返された状況下では、他事件との重複は期日変更の正当な理由とはならず、原審が申請を却下し審理を進めた判断は正当である。被告人自身も召喚を受けながら無届欠席を続けており、迅速な裁判の要請に照らせば、弁護権を不当に制限したものとはいえない。
結論
弁護人の度重なる変更申請を却下して弁護人抜きで審理を進めることは、不法な弁護権の制限には当たらず、憲法37条3項等にも違反しない。
実務上の射程
刑事訴訟における裁判の迅速と弁護権の調和の限界を示した判例である。弁護人が正当な理由なく出頭しない場合に弁護人抜きで公判手続を進めること(現行法289条等の必要的弁護事件における例外等)を検討する際の、憲法的な許容範囲を基礎付ける法理として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)1999 / 裁判年月日: 昭和29年1月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項前段は、裁判所に対し、被告人側から申請された証人をすべて尋問する義務を課したものではなく、必要性がないと判断される証人の尋問を却下しても同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、銃砲等所持禁止令違反等の罪に問われた事案において、特定の証人尋問を申請したが、裁判所によって採用され…
事件番号: 昭和24(れ)1137 / 裁判年月日: 昭和24年9月29日 / 結論: 棄却
一 銃砲等所持禁止令第一條違反の犯罪は、所定の刀劍類を所持するを以て成立し、ただその所持當時同條但書の事由あるときはその犯罪の成立を阻却するに過ぎないものである。されば刀劍の所持當時同條但書所定の許可がない以上、たとい許可申請の意思がありしかも不可抗力的事情で許可申請をすることができなかつたといつて、犯意なしというない…
事件番号: 昭和26(れ)2040 / 裁判年月日: 昭和27年3月13日 / 結論: 棄却
判決言渡期日に被告人、弁護人を召喚しなかつた違法があつても、被告人が自白しておつて、弁護人も犯情について弁論したに止まり、被告人も別に陳述することがないとして弁論が終結された場合には、その違法は判決に影響があるとはいえない。
事件番号: 昭和24(れ)444 / 裁判年月日: 昭和24年7月14日 / 結論: 棄却
しかし、刑の執行を猶豫すると否とは、事實審たる原裁判所が諸般の事情を斟酌して判定すべき自由裁量の事項に屬し、刑の執行を猶豫しない理由が人種、信條性、別社會的身分又は門地により被告人を差別するものでない限り憲法第一四條の規定の趣旨に反するものでないことは既に當裁判所大法廷の判例とするとでころある。(昭和二三年(れ)第七〇…