一 國民が政策を批判し、その失敗を攻撃することは、その方法が公安を害しない限り、言論その他一切の表現の自由に屬するのであらうが、しかし、現今における貧困な食糧事情の下に國家が國民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められた同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に對する賣渡に關し、これを爲さざることを煽動するが如きことは、國民として負擔する法律上の重要な義務の不履行を從慂し、公共の福祉を害するものであるから、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し社會生活において道義的に責むべきものであり、從つてこれを犯罪として處罰する食糧緊急措置令第一一條は新憲法第二一條の條規に反するものでないことは當裁判所大法廷の判例(昭和二三年(れ)第一三〇八號同二四年五月一八日大法廷判決判例集第三卷第六號第八三九頁以下參照)とするところである。 二 村の農家組合長及び食糧調整委員外數名が集合して供米のことについて話合つている席上で同人等一同に對し「われわれ農家は自主的檢見による實收量から一人當り四合の保有米を確保してその残りを供出すればよい」旨供米を阻害するようなことをいつて主要食糧を政府に賣渡さないことを煽動したことは、憲法所定の言論の自由の範圍を逸脱し食糧緊急措置令第一一條の罪が成立する。
一 食糧緊急措置令の合憲性(憲法第二一條) 二 言論の自由と食糧緊急措置令第一一條
憲法21條,憲法12條,食糧緊急措置措置令11條,食糧緊急措置令第11條
判旨
食糧緊急措置令11条に基づき、主要食糧の政府への売渡しをしないよう煽動する行為を処罰することは、公共の福祉に反する行為を禁ずるものであり、憲法21条に違反しない。
問題の所在(論点)
主要食糧の売渡しをしないよう煽動する行為を処罰する食糧緊急措置令11条が、憲法21条の保障する表現の自由を不当に制限し違憲ではないか。
規範
言論その他の表現の自由は、国民が政府の政策を批判し失政を攻撃する手段として保障されるが、その行使は公安を害しない範囲に限られる。国民が法律上負担する重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するような言論は、憲法が保障する表現の自由の限界を逸脱するものとして、これを処罰の対象とすることは合憲である。
重要事実
農業に従事し支部書記を務める被告人が、農家組合長や食糧調整委員らが供米について話し合っていた席上で、「実収量から一人一日当たり四合の保有米を確保し、その残りを供出すればよい」旨を発言した。これが、食糧管理法等に基づく主要食糧の政府への売渡しを阻害する煽動行為に当たるとして、食糧緊急措置令11条違反で起訴された。
あてはめ
当時の貧困な食糧事情において、食糧管理法に基づき国民全体の食糧を確保することは国家の緊要な目的である。主要食糧の売渡しは国民が負担する法律上の重要な義務であり、これをなさないよう煽動することは、社会生活上の道義に反し、公共の福祉を著しく害する。したがって、被告人の言論は憲法が予定する自由の範囲を逸脱しており、これを犯罪として処罰することは正当化される。
結論
本件処罰規定は憲法21条に違反せず、被告人の行為は同条の保障の範囲外である。再上告を棄却する。
実務上の射程
表現の自由の限界を「公共の福祉」によって画定する初期の判例である。現代的な二重の基準論や明確性の原則から見れば、煽動という文言の広範さや公共の福祉による抽象的制約に議論の余地はあるが、食糧難という当時の特殊な社会状況(立法事実)を背景とした、公共の福祉による表現の自由の合憲的制限の一例として引用される。
事件番号: 昭和26(あ)4868 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧緊急措置令11条が規定する事項が、憲法21条が保障する表現の自由(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由)に違反しないことを判示した。 第1 事案の概要:被告人は食糧緊急措置令違反の罪に問われ、同令11条の合憲性が争点となった。被告人側は、同条が憲法21条の表現の自由に違反する旨を主張…