一 食糧緊急措置令一一条の違反たるには、主要食糧の政府に対する売渡を本質的、全面的に否定することを煽動すると、その売渡の数量の一部を売り渡さないこと若しくは供出時期迄に売り渡さないことを煽動するとを問わないこと論をまたない。 二 主要食糧の政府に対する売渡を為さざることを煽動するが如き言動を処罰することは何等憲法第二一条に反するものでない。 三 食糧緊急措置令は昭和二一年二月一七日旧憲法八条一項に基いて制定された緊急勅令であるが、右は法律に代わるべきものであり、その後適法に帝国議会(昭和二一年八月二七日に衆議院同年九月一七日に貴族院)の承諾を経たものであるから、将来に向つても法律と同一の効力を有するものである。そして、新憲法施行前において適式に制定された法規はその内容が新憲法の条規に反しない限り、新憲法施行と同時にその効力を失うものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二二年(れ)二七九号同二三年六月二三日大法廷判決判例集二巻七号七二二頁参照)から措置令が新憲法施行と同時にその効力を失うことにはならない。次に同措置令は法律と同一の効力を有するものであるから昭和二二年法律第七二号第一条にいわゆる命令にあたるものでなく、従つて昭和二二年一二月三一日を限り失効するものでないと解するを相当とする。 四 食糧緊急措置令第一一条は憲法第二九条に違反しない。
一 主要食糧を供出時期までに売り渡さないことを煽動する所為と食糧緊急措置令第一一条 二 主要食糧の政府に対する売渡を為さざることを煽動するが如き言動と言論の自由 三 日本国憲法施行後における食糧緊急措置令の効力 四 食糧緊急措置令第一一条の合憲性
食糧緊急措置令11条,食糧緊急措置令第11条,食糧緊急措置令1条,憲法21条,憲法29条,旧憲法8条,昭和22年法律72号1条
判旨
食糧緊急措置令11条による主要食糧の売渡拒否の煽動処罰は、国民の重要な義務不履行を慫慂し公共の福祉を害するものであるため、憲法21条に反しない。また、同法による供出制度は生産費等を参酌した価格での買受けであり、憲法29条3項の正当な補償の下での公共利用として合憲である。
問題の所在(論点)
1. 食糧緊急措置令11条による「煽動」の処罰が、憲法21条(表現の自由)に違反するか。 2. 食糧管理法に基づく主要食糧の供出制度(売渡義務)が、憲法29条(財産権)に違反するか。
規範
憲法が保障する言論の自由といえども無制約ではなく、公共の福祉によって調整されるべき場合がある。国民が負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害する言動は、表現の自由の限界を逸脱するものとして処罰が可能である。また、財産権の制限については、国民経済の安定や食糧確保という公共の目的のために、経済事情を参酌した適正な価格(正当な補償)をもってなされるのであれば、憲法29条に違反しない。
重要事実
被告人らは、昭和21年度産の米の割当決定に対し、生産者が政府へ米を売り渡さないようにしようと決意し、講演や説明を通じて売渡拒否を力説・発言した。これが食糧緊急措置令11条(主要食糧の政府への売渡をなさないことの煽動)に抵触するとして起訴された。被告人らは、同規定が言論の自由(21条)や私有財産制(29条)を侵害する憲法違反であると主張して争った。
あてはめ
1. 被告人らの言動は、食糧管理法の目的遂行のために課された「政府への売渡」という法律上の重要義務の不履行を慫慂するものである。これは公共の福祉を害する言論であり、表現の自由の正当な限界を逸脱している。 2. 供出制度は、国民の食糧確保と経済安定という正当な目的のために行われている。売渡価格は生産費や物価等の経済事情を参酌して定められており、これは「正当な補償」の下に私有財産を公共のために用いるものといえ、私有財産制度を否認するものではない。
結論
食糧緊急措置令11条は憲法21条および29条に違反せず合憲である。被告人らの行為は適法に処罰される。
実務上の射程
表現の自由の限界を「公共の福祉」や「義務不履行の慫慂」に見出す初期の重要判例。財産権については、社会全体の利益(食糧確保)のための合理的制限と、適正な価格算定プロセスがあれば29条3項の「正当な補償」を満たすとする判断枠組みとして参照される。
事件番号: 昭和26(あ)4868 / 裁判年月日: 昭和28年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧緊急措置令11条が規定する事項が、憲法21条が保障する表現の自由(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由)に違反しないことを判示した。 第1 事案の概要:被告人は食糧緊急措置令違反の罪に問われ、同令11条の合憲性が争点となった。被告人側は、同条が憲法21条の表現の自由に違反する旨を主張…
事件番号: 昭和24(れ)1839 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
一 國民が政策を批判し、その失敗を攻撃することは、その方法が公安を害しない限り、言論その他一切の表現の自由に屬するのであらうが、しかし、現今における貧困な食糧事情の下に國家が國民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められた同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に對する賣渡に…
事件番号: 昭和27(あ)3429 / 裁判年月日: 昭和29年2月23日 / 結論: 棄却
食糧緊急措置令の収用と憲法三五条の押収とは全く無関係のものであるこという迄もない。論旨第一点の如きは全く違憲に名を藉るものと見ざるを得ない。