一 共謀による共同正犯の事實を判示するに當り、判決の事實理由において、共謀者中の誰がいかなる行爲をしたかを特定しなくとも、證據の内容と照らし合わせてみて各自の受け持ちとそれぞれの實行々爲の内容を知り得る以上、判決として理由不備の違法あるものということはできない。 二 論旨第一點は、被告人Aが原審相被告人二名および第一審相被告人三名とともに本件強盜につきあらかじめ相談したことは證據によつて認められているが、犯行當夜は自宅に就寝中であつて強盜の實行行爲には全然關係していないのに、原審が刑法第六十條によりAに共同正犯の責を負わせたのは、法條の適用を誤つたものであると主張する。しかし、共謀を共同正犯なりとする理論は既に大審院時代に判例となつて今日に至り、當裁判所の判例もかなりに廣くこれを認めている。(昭和二四年六月一一日第二小法廷判決參照)この理論をどの程度まで展開せしむべきかはなお問題としても、原審舉示の證據によれば被告人Aは本件強盜犯の實際上の主謀者だつたのであつて、自ら實行行爲に参與しなかつたが、最初に強盜を首唱してその方法等を他の共犯者に指示したりしたのであるから、明かに自己の犯意を他の共犯者を通じて實行に移したものと言い得るのであつて、これこそ正に共謀による共同正犯の典型的事例と言つてよい。(昭和二三年一〇月六日最高裁判所大法廷判決参照)それゆえ原審が被告人を共同正犯なりとしたのは刑法第六〇條の正當な適用であつて論旨は理由がない。 三 論旨第三點は、原審に、被告人Bの辯護人Cに對し召喚手續を採らずに公判を開廷して審理判決した違法があるというのである。よつて記録を調べて見ると、原審本件の公判期日が昭和二四年一月一八日に同年二月一日と指定された後。その前日なる一月三一日にC辯護人の辯護届が原審に提出受理されたのである。そして同辯護人に対する召喚手續が採られた形跡もなく同辯護人から期日の請書も出ておらず、同辯護人は右公判期日に出廷していない。そこでかような場合についての判例をさかのぼると、大正一三年六月七日大審院刑事部判決(集三巻四七〇頁)に「裁判所ニ於テ既ニ公判期日ヲ定メ、被告人ニ對シ召喚手續ヲ爲シタル後始メテ辯護人選任ノ書面ヲ差出シタル場合ニハ辯護人ヲ特ニ其ノ期日ニ召喚スルノ要ナキモノトス。」とある。論旨は、辯護人の召喚は被告人に對する召喚に附随してされるものではなく全然獨自の立場でされるものだとの理由で右の判例を批難するが、被告人召喚後に辯護届を出す辯護人はそれまでに經過しまた豫定された訴訟の進行程度を承知の上で参加したものと見られてもやむを得ぬ次第でありまた本件のごとく豫定の公判期日の前日になつて辯護届を出したやうな場合には、實際上これに對して召喚状を出し請書を取るというやうな手續をする時間のない場合があり得る。なお本件において被告人Bは公判期日においてC辯護人の辯論を抛棄する旨の陳述をしたが辯護人を召喚しないで審理した手續上の瑕疵はこれによつて除去されないことは所論の通りである。(昭和六年五月七日大審院刑事部判決、集一〇巻第二一一頁參照)(四)こゝにおいて残る問題は、本件において被告人に對し適法な召喚手續が執られたかということである。(昭和一一年五月四日大審院第一刑事部判決參照)論旨は被告人に對して召喚状が發せられなかつたというが、被告人Bは當時原審なる名古屋高等裁判所に近接する名古屋刑務所に勾留中だつたのであるから、その召喚は舊刑事訴訟法第八四條第三項によつて行われ得るのであり、その召喚手續は在監人呼出簿に記入して行われ、その旨は記録に記載されないのであるが、本人が期日に出廷していることそのことが右の手續が行われたことを示すものと云い得る。そして「此ノ場合ニ於テハ被告人監獄官吏ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚状ノ送達アリタルモノト看做ス」のであるから、本件は正に前記大正一三年六月七日大審院判例の場合に當り論旨は理由がない。
一 共謀による共同正犯事實の判示方 二 實行行爲をしない強盜の主謀者が就寝中であつた場合における罪責 三 裁判所に於て既に公判期日を定め被告人に對し召喚手續を爲したる後始めて辯護人選任の書面を差出したる場合に於て辯護人を特に其期日に召喚することの要否
舊刑訴360條1項,刑法60條,刑法236條,舊刑訴法84條3項,舊刑訴法320條1項
判旨
実行行為に直接関与していない者であっても、共謀に基づき、自己の犯意を他の共犯者を通じて実行に移したと認められる場合には、共同正犯(刑法60条)としての責任を負う。特に、犯行の主謀者として首唱・指示を行った者は、共謀共同正犯の典型である。
問題の所在(論点)
実行行為に直接関与せず、共謀と指示のみを行った主謀者について、刑法60条の共同正犯が成立するか。
規範
二人以上が共同して犯罪を実行したといえるためには、必ずしも全員が直接に実行行為を分担することを要しない。共謀に基づき、自己の犯意を他の共犯者を通じて実現したと認められる関係(共謀共同正犯)があれば、実行行為に加わっていない者も、その犯罪全体の共同正犯としての責任を負う。
重要事実
被告人Aは、他の共犯者数名とともに強盗をあらかじめ相談した。Aは本件強盗の事実上の主謀者であり、最初に強盗を首唱し、具体的な方法等を他の共犯者に指示した。しかし、犯行当夜、Aは自宅で就寝しており、現場での強盗の実行行為には直接関与しなかった。弁護側は、実行行為への関与がない以上、共同正犯の成立は認められないと主張して上告した。
あてはめ
被告人Aは本件強盗の主謀者として、自ら強盗を首唱し、その方法を指示するという重要な役割を担っている。この事実は、Aが他の共犯者を通じて自己の犯意を具体的に実行に移したものと評価できる。したがって、実行行為に直接参与していないとしても、共謀による共同正犯の典型的事例に該当すると解される。現場に不在であったという事実は、右の共謀に基づく犯罪の共同実行という評価を左右するものではない。
結論
被告人Aには、現場での実行行為がないとしても、刑法60条により強盗の共同正犯が成立する。したがって、共同正犯の責任を負わせた原審の判断に法令適用の誤りはない。
実務上の射程
共謀共同正犯の成立を認めた初期の重要判例である。答案上は、①共謀(意思の連絡)、②これに基づく実行、③正犯性の充足(自己の犯罪として行う意思)を検討する際、主謀者としての立場や指示の内容を「正犯性」の有力な要素として摘示する形で用いる。
事件番号: 昭和24(れ)2611 / 裁判年月日: 昭和25年2月10日 / 結論: 棄却
他の共犯者に強要され又は欺計によつて、やむなく強盜に參加したもので犯意を阻却するものであるとの主張は、原審辯護人が單に犯情として述べた或は犯意の存在を否定したものに過ぎないことは、原審公判調書の記載に徴し明らかであつて、かかる主張は、舊刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スペキ原由タル事實ノ主張」に…